「受け取らない」という態度は、自己価値の低さや自立の問題として扱われることが多いものです。
しかし、それはその人の「こだわり」というポジティブな面の場合は、少しアプローチが異なります。
1.「受け取れない」問題の2つの原因
カウンセリングのなかで、よく出てくるテーマに「受け取れない」問題というものがあります。
分かりやすいのは、周りの人からの好意や愛情、評価を受け取れない、という症状でしょうか。
少し深く見てみると、自分の価値や権威性を受け取れない、という視点から見ることも可能でしょう。
周りの好意や愛情を受け取れないと、だんだんと生きること自体がハードになってしまいます。
たくさん差しのべられる手をはねのけて、「ほしがりません、勝つまでは」的な状態になってしまいます。
そして、自分の価値を受けとることができないと、自分に合わなかったり、自分を傷つけるような環境や職場、コミュニティから抜けだすことが難しくなります。
「こんな私には、これくらいがふさわしい」と、無意識に考えてしまうわけです。
これは、恋愛やパートナーシップでも非常に頻出するテーマでもあります。
こうした「受け取れない」問題には、2つの原因が考えられます。
自立しすぎという原因
まず一つ目が、「自立」のしすぎが原因である、というものです。
私たちの心は、「依存」から「自立」、そして「相互依存」というプロセスを経て成長していきます。
最初は誰でも「依存」から始まります。
しかし、そこは周りから与えられるだけで、自分が何もできない状態ですので、主導権がなく辛くしんどい状態です。
そこから、なんとか自分ひとりでできることを増やそうとしていくのが、「自立」の過程です。
「自立」では、自分でできることが増える反面、孤立しやすくなります。
それは、ある意味で自然なことです。
「自立」して、一人でなんでもやろうとするわけですから、周りの援助や手助けを受けていたら、「依存」に戻ってしまうと感じるものです。
そして、「自立」が進むと、自分の正しさを証明するために、周りと対立や葛藤、競争といったものを抱えやすくなります。
なかなか、競争相手から施しを受けるというのは、抵抗がありますよね。
というわけで、「受け取れない」症状の大きな原因の一つは、「自立」のしすぎがあります。
もちろん、だから悪いわけでもなんでもなくて、よくそこまで頑張ってきましたよね、という見方をしたいものです。
不当に低い自己価値という原因
「受け取れない」ことのもう一つの原因として、自己価値が不当に低い、というものがあります。
受け取るためには、それに見合うだけの価値が自分にないと、難しいと考えてしまうものです。
どんなに周りの人が好意や愛情を示してくれたとしても、「自分にはそんなに愛される価値なんてない…」と感じてしまうわけです。
これは、その人にとっても、周りの人にとって、どちらも不幸なことといえます。
周りの人からしたら、差し出した好意や愛情を受け取ってもらえないと、「なんだ、せっかくあげたのに」という気分になってしまいます。
反対に、その人からしたら、「受け取っていない」というのは分かっていますから、「せっかく差し出されたごちそうを、むざむざ捨てさせた」ということになり、強い罪悪感を覚えます。
その罪悪感によって、ますます受けとりづらくしてしまうことにもなってしまいます。
自分の価値を、どう見るのか。
自分自身を、どう扱うのか。
それが不当に低かったりすると、「受け取れない」という問題が出てきたりするものです。
2.「こだわり」から受け取らないという見方
さて、そうした「受け取れない」症状と、その代表的な原因を見てきました。
しかし、同じ「受け取れない」でも、少し違った原因の場合もあります。
それが、「こだわり」から受け取らないという見方です。
たとえば、ショパンピアノコンクールで優勝を狙っているピアニストがいたとします。
そのピアニストは、「バイエルがぜんぶひけるなんて、たくさん練習したんだね。すごいね」と言われて、受け取れると思われますでしょうか?
「ええ、まぁ…そうですけれども…」という反応になるのではないでしょうか。
場合によっては、「は?何言ってんの?」と怒ってしまうかもしれません。
そうなんです。
その人の目指しているものや理想、あるいはこだわりから、受け取れないということも、あるわけです。
傍から見たら、それは「受け取れない」という反応に見えるかもしれません。
けれども、それはその人自身の設定した理想やこだわりが高いがゆえ、ということはできそうです。
先ほどのは、極端な例かもしれません。
けれども、その人自身が設定したハードルが高いほどに、その「受け取れない」という事象は起こりやすくなります。
そして、高いハードルを設定すること自体は、決して悪いことではありません。
もちろん、自分に合った健全な範囲で、という意味ではありますが。
「受け取らない」にも、「こだわり」や「高い理想」からそうしている、というものがあるといえます。
3.それぞれへのアプローチの違い
必要なアプローチが違ってくる
さて、ここまで見てきた「受け取らない」に対して、必要なアプローチは異なってきます。
最初に見た、自立や自己価値に起因する「受け取らない」事象の場合。
その場合は、自立を手放すことが必要になるでしょうし、自分自身の価値をもっと認めることが必要になってきます。
自分一人でなんでもやろうとすることをやめる。
あるいは、何かができる、何かが優れているといった視点で、自分の価値を測ることをやめる。
ただ、自分自身が存在することだけで、価値があることを信じる。
そうしたアプローチが必要になるのでしょう。
がんばるのをやめる、という方向性ですし、それによって「受け取る」ことをする方向性です。
一方で、二つ目に見た「こだわり」や「高い理想」に起因する場合。
その場合は、逆のベクトルが必要になるのでしょう。
だって、先ほどのピアニストに「もっと受け取りなさいよ」と言ったところで、何か解決するかといえば、そうではないわけです。
「受け取る」「受け取らない」という問題で考えるよりは、その「こだわり」、あるいは「高い理想」に向けて、自分自身をどうやったら高めていくかに、エネルギーを注いだ方がよさそうです。
いま、自分に必要なのはどちらなのか?
これらは、どちらが正しいアプローチというわけでもなく、どちらも正しいし、どちらも必要なのでしょう。
車の両輪のようなもの、といえます。
そして、心の世界ではよくあることですが、その二つがスッパリときれいに分かれる、ということもないものです。
大部分が自立のし過ぎによる「受け取れなさ」だけれども、1割くらいは「こだわり」があったり。
あるいは、仕事の上では「こだわり」があって受け取れないけれど、恋愛関係では自分に自信がなくて「受け取れない」状態だったりするものです。
まだら模様、グラデーションのようになっているのが、私たちの心でもあります。
なので、「受け取れない」という一つの事象を見て、「自立のし過ぎだ」「自己価値の問題だ」という一面だけを見るのではなく、多様な見方をしたいものです。
私たちの心の成長のプロセス、そのタイミングによって、必要なものは変わってきます。
いま自分に必要なものは、どちらなのか。
それは、一度落ち着いて考えてみる価値のあるものだと思うのです。
今日は、「受け取らない」という問題にも、いろんな見方がある、というテーマでお伝えしました。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
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