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ここのところ子どもの頃に好きだったことに再び触れる機会がありましたが、小さいころワクワクしたことは年を経ても変わらないな、と実感しました。
日記のようなつれづれですが、綴ってみたいと思います。
きっかけは歓迎会か何かで泥酔した私が、ソフトボールをやっていたという後輩の話を聞いて「それじゃ大会やろうよ、大会!」と騒いだらしいが、いつも通り記憶はあまり定かではない。
それでも野球経験のある同僚がそれを実現してくれるのだから、酔っ払ってみるもんだ。
6月も末の週末、その大会の日は訪れた。
前日はワクワクして眠りが浅かった。
幼い頃の私は、野球が好きだが友達は少なく、いつも一人壁当てをしている少年だった。
空想の中では甲子園のマウンドにも上がったし、日本シリーズの第7戦の9回裏を任されたりもした。
そんな私が、野球(正確にはソフトボールだが)を「みんなで」するという喜びを味わえるのは、何年振りだろうか。
市営の球場の駐車場に車を停めるときから、心は躍り、はやる足を抑えられなかった。
しかも今日はナイター。
ナイターとはプロ野球選手の特権のように思っていた私にとって、もうこれだけで幸せすぎるシチュエーションである。
軽く身体を動かし、キャッチボールをしてみる。
数十年ぶりの、ミットに収まるボールの感覚。
掌のしびれが、心地よい。
ナイターの灯りと共に、満足げな表情で。
野球をするウエアはなく、サッカーのフランス代表「レ・ブルー」のユニフォームに、下はサッカースパイクという格好。
勘違いしてはいけないが、「好き」と「上手い」はイコールではない。
私はその例の通り運動神経が少しだけ人より鈍いので、「上手い」わけではない。
草野球で下手な選手のポジションの定番、「ライト」の守備を仰せつかる。
期待された通り、あまり打球は飛んでこず。
それでも、守っている時間が楽しい。
そして打席に立ってバットを振ることが、楽しい。
ボールに当たると、もっと楽しい。
そしてランナーとして塁上に残ることができると、さらに楽しい。
あっという間に予定されていた2時間は過ぎ、試合終了の挨拶をしてグラウンド整備をする頃に、なんと大粒の雨が降り出すという奇跡的なシチュエーション。
まるで試合が終わるのを待っていてくれたかのようだ。
遅くなったので、魚屋ごんべえさんに寄って鯖の塩焼きと豚汁定食を食べながら、壁にかけられたテレビを見ていると、早く終わった野球中継のあまり時間で、往年のドラゴンズの巨人戦特集をしていた。
私はぼーっっと天下分け目の決戦となった10.8の懐かしい映像を見ながら、在りし日の父親とよく通っていたあのナゴヤ球場のライトスタンドを想いだしていた。
ワールドカップでサッカーも盛り上がっているけれど、やはり野球もいい。
そしてその翌日、大会を実現してくれた同僚に案内してもらい、私は息子とクワガタ捕りに早朝から出かけた。
クワガタ捕りも、何十年ぶり。
近くに雑木林がなく、またアクティブでなかった少年の私は、蝶や蝉は近所の公園でよく捕ったものの、カブトムシやクワガタとはあまり縁がなかった。
一度祖父の仕事仲間に連れて行ってもらって、夜明け前の早朝からカブトムシを捕りに行った記憶があるが、それくらいのものだった。
何十年ぶりのクワガタ捕りに、ソフトボールの疲労にもかかわらず朝5時台に目覚ましなしでバチッと目が覚める。
息子も同様だった。
アテンドしてもらったのは、自宅から30分ほど車で走ったところにある大きな公園の一角。
確実にアテンドがなければ入れない、森の中。
夜にけっこう降っていた雨もうまい具合に止んで、クワガタ捕りには絶好のシチュエーションだそう。
まだ雨に濡れてぬかるんだ地面を踏みしめながら、歩いていく。
少し開けたところからまた森の中に入った地点に、目標となる木はあった。
なぜか他の木には寄らず、その木だけにクワガタは寄って来るらしい。
よっぽど美味しい樹液の匂いがしているのだろうか。
朝の光の中、そいつはいた。
大きなノコギリクワガタ。
神々しくもあるその光景に、息子と一緒に目を奪われる。
よく木の周りを眺めてみると、足元にノコギリクワガタのメスが二匹もおり、幸運にもつがいで捕まえることができた。
新調した虫かごの中で映えるノコギリクワガタ。
よほど気に入ったようで、息子はしばらくその美しい姿を見つめていた。
ソフトボールにクワガタ。
それを実現してくれた恩人に感謝するとともに、子どもの頃の「ワクワク」は年を経ても変わらないものだな、と実感した二日間だった。
息子と一緒にクワガタを眺めながら、今度はナゴヤ球場へドラゴンズの二軍戦でも観戦に行こうかと考える私であった。