名古屋市内のパロマ瑞穂スタジアムを、ずいぶん久しぶりにJリーグを観戦に訪問した。
正午過ぎに自宅を出ると、秋の色をした青空が広がっていた。
ただ、この日の名古屋は最高気温が31度と、10月にしてはめずらしい真夏日。
汗を拭きながら地下鉄の駅への道を息子と歩く。
スタジアムの最寄駅のコンコースは「グランパスロード」と称して、これまでの歴史と現在の在籍メンバーが掲示されていた。
先般中山競馬場を訪れたときにも中山を駆け抜けた名馬の写真の掲示があり思ったのだが、私はこういうのに弱いらしい。
あのベンゲル監督が就任したのは、1995年だったのか。
アーセナルを長く務めた名将が、この名古屋で指揮を執っていた歴史があると思うと、感慨深い。
ピクシーことストイコビッチが、若い。
この妖精のプレーに魅せられ、そして木村元彦さんの名著「悪者見参」に触発されて、ピクシーの祖国・ユーゴスラビアの悲しく複雑な歴史を学んだことが思い出される。
1996年、天皇杯を制した歓喜の写真、貴重なクラブの栄光の歴史。
選手の髪型に歴史を感じる。
そして2008年の、ピクシーの監督就任。
名古屋に戻ってきてくれて、嬉しかったのを覚えている。
そんな感慨に耽っていると、あっというまにスタジアムに着いた。
抜けるような青空、美しい芝のピッチ、そして大音量のチャントを上げるスタンド。
あぁ、サッカーっていいな…
この日は名古屋グランパスエイト対大分トリニータの一戦。
バックスタンドでは、大分トリニータのサポーターが気炎を上げている。
九州からこの名古屋までの距離を遠しとせず、駆け付けたサポーターも多いのだろう。
うーん、ライフワークを生きているなぁ…
試合前の練習、少しずつテンションが上がっていく。
大声援に迎えられ、本日のスターティングメンバ―紹介。
GⅠレースの本馬場入場然り、年々こういう「始まる前の時間」が一番楽しいと思うようになってきた。
始まってしまえば、あとは楽しんで終わるだけなのだけれど、未然のいまならば、どんなドラマも描くことができる。
夢も希望もライフワークも、叶えたという結果よりも、叶える渦中が一番楽しいのだ。
選手入場。
22人の選手たちは、ここに来るまでにどれだけの努力を重ね、自らの才能を問う時間を積み重ねてきたのだろう。
それを想像するだけで、目頭が熱くなる。
年を取ったということか。
グランパスサポーターのテンションもMAXに。
それにしても、赤い。
両チーム円陣を組み、気合を入れる。
グランパスは今季の成績がパッとせず、J2降格圏に近い下位に低迷。
ホームで勝って勢いをつけたいところ。
いよいよキックオフ。
久しぶりのライブでのサッカー観戦に、心が躍る。
秋らしからぬ真夏日の強い陽射し。
消耗戦になることを想定してか、両チームとも安全運転で静かな立ち上がり。
両サポーターの熱のこもったチャントが響く。
何度かグランパスがサイドの崩しからチャンスを作りかけるも、ゴールまでは至らず。
「いつ、てんがはいるんだ?」と素朴な質問を投げかけてくる息子を何とかなだめていたが、そのうちに暑さでギブアップして前半終了間際で残念ながら退散することになった。
私とは正反対の性格だなぁ、と不思議に思う。
父に連れられたナゴヤ球場で、私は雨が降ろうが、大量失点のワンサイドゲームになろうが、延長戦で夜遅くなろうが、絶対に試合の決着が着くまで帰ろうとしなかった。
息子には、そのケは微塵もない。
「はやくかえって、バッタをつかまえよう」などと言っている。
不思議なものだ。
ナゴヤ球場での偏執狂のような小さな私を思い出しながら、帰路につくことにした。
スタジアムを出ると、おそらくグランパスがチャンスを迎えたであろう大きな声援と、それが得点に結びつかなかったらしい大きなため息が聞こえてきた。
名残惜しくなりながら、私は息子を肩車した。
トリニータのサポーターの元気なチャントは、まだ聞こえている。
バイバイ、パロマ瑞穂スタジアム。
バイバイ、グランパス。
また来るよ。