大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

球春の到来、つながれる父の愛。

今年もプロ野球が開幕した。
まだ入場者数の上限に制限がかかっているとはいえ、今年も球春が訪れたことに感謝したい。

去年は、コロナ禍の中、6月に無観客での開幕だった。
世相騒がしい中、我らが中日ドラゴンズは序盤戦こそ苦しんだものの、終盤にかけて追い上げ、実に8年ぶりのAクラスを勝ち取った

100年に一度の感染症禍の中、いままで当たり前だったことが当たり前でなくなり、騒がしい世相だったが、そんな中でドラゴンズの戦いを追うことは、ありがたい時間だった。

8年ぶりのAクラス、今年は果たして。
期待と不安とが入り混じった、そわそわとする開幕戦。

帰りしなの車中のラジオで、一球一球に喜怒哀楽を覚える。

広島のエース・大瀬良大地投手の前に、7回まで散発3安打。
開幕投手の大役を初めて務めた福谷浩司投手は、さすがに重圧もあったか、初回、2回と広島打線につかまり、4失点。
完全な負けパターンの試合展開に、「また、今年も貧打か…」とため息をついていた。

ところが。
なんと8回に木下拓哉捕手の2塁打を足掛かりに、ダヤン・ビシエド選手の2ランを含む5得点のビッグイニングを作り、大逆転。
その後、広島の反撃を受けるものの、何とか7対6で薄氷の逃げ切り。

苦手とする敵地・マツダスタジアムでの開幕戦を、勝利で飾った。

年に何回もない試合が、開幕戦でできるとは。
半ば狐につままれたような心持になりながら、それでも球春の訪れを喜ばしく思う。

そんな開幕戦の翌日、息子が「やきゅうをやろう!」と言い出す。
息子は、高校野球を観ていて、野球熱が高まったようだ。

ついて来ると言った娘と一緒に久しぶりに、バットとボールを持って、近所の公園へ。

息子は、以前と比べてずいぶんとボールを捕るのも、バットに当てるのもうまくなっていた。
小学生の半年間というのは、大人からは想像もつかないような成長を、日々しているのだろう。

最初のできない時期を過ぎて、少し自分の思うように投げたり、打ったりできるのが、楽しいのだろう。

「やきゅう、たのしい」
「あすも、らいしゅうのお休みも、やるよ」
「きゅうけいは、10びょうね」

などと不穏なことを、ぶつぶつと言う息子。
なかなか休憩のおゆるしをいただけず、投げては捕って、捕っては投げて。

無心に、白球を追う。

バッティング練習では、息子が打った球を毎回取りに行かされる苦行もあったが、何とか交代で取りに行く交渉には成功した。

気づけば、夕陽はもうどっぷりと沈みかけていた。

お茶を飲みながら、息子が聞いた。

「おとうは、なんでドラゴンズがすきなの?」
「あぁ、おとうのおとうがすきだったからな。ただ、それだけさ」
「ふーん」
ほんとうに、ただ、それだけなのだろう。

父に手を引かれて訪れた、ナゴヤ球場。
紙吹雪が舞い、トランペットとメガホンの鳴る音がこだまする。
好きだったのは、あのライトスタンドの空間だったのか、それとも、父だったのか。

仕事に忙しい父を、独り占めできる時間だったのだろう。

もっと、キャッチボールもしたかった。
独りで壁当ても楽しいけれど、もっと、父と遊びたかった。

そんな根源的な寂しさを、ずっと抱えてきた。

その寂しさは、なくなることはなのだろうけれど。
けれど、自分がしてほしかったことを、息子にしてあげることはできる。

それは、与えてほしかったものを与えてもらうより、幸せで満たされることなのだろう。

スマートフォンで、スポーツニュースを見ると、残念ながら今日のドラゴンズは敗れてしまったようだ。

連勝ならず。
至極残念ではあるが、また明日がある。

球春、白球、ドラゴンズ。
父の愛は、今年もつながれていく。

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