名古屋駅から車で10分ほど。
名古屋高速沿いに江川線を南に下って、JR東海道本線の高架をくぐったあたり。
JR・尾頭橋駅、名鉄・山王駅といえば、中日ドラゴンズの元本拠地・ナゴヤ球場とJRAのウインズ名古屋がある。
個人的には思い入れのあるそんな辺りに、名古屋 菓子處 不朽園の尾頭橋本店がある。
定番の「不朽最中」をはじめとした甘味を求めて、今日も多くの人が訪れる。
かの地で創業して90年余り。
先の大戦で空襲の激しかった名古屋のこと、戦禍を受けて店舗を焼失したと聞く。
戦後、名古屋駅西の闇市でブローカーから砂糖と小豆を何とか仕入ながら、営業を続けたという歴史を知るにつけ、その甘さが多くの名古屋人の希望となっていたのだろうと思う。
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不朽園さんの名前を知ったのは、勤め始めてからだった。
前職の先輩社員から、「ホンモノの最中、一度くらい食べとけ」と言われた。
やさしく、あまく、実直な、美味しい最中だった。
ホンモノとは、こういう味なのか、と思った。
当時はよく飲む左党だったので、それ以上の興味を持たなかったが、酒を断って甘いものと仲良くなってからは、またその魅力に惹かれている。
餡と、最中種。
ただ、それだけ。
奇も衒いもなく。
それでいて、紛うことなき王道のような、実直な味。
そして、出来立てが何より美味しい。
昨今、嗜好やライフスタイルの多様化によって「ギフト」の難易度は上がる一方だ。
お酒を飲まない人もいれば、ベジタリアン、あるいはシュガーフリーの生活をしている人もいる。
「万人に喜ばれるもの」というジャンルは、もう絶滅危惧種に近い。
個人的には、最後の砦が「電報」と「花」だと思っているのだが、恐らくそれも変わっていくのだろう。
まして、「贈り物」は相手に受け取る手間と時間を要する。
手渡しにしても持ち帰って頂くのは迷惑かもしれないし、あるいは郵送で送るにしても核家族化や一人暮らしが増えた昨今では、受取だけでも手間だろう。
年々、「贈り物」のハードルは高くなる一方である。
それでも、である。
それでも、おもたせにしたい、と思わせるものが、世の中には、ある。
「不朽最中」は、まさにその一つだと思う。
パリッとした皮、そして透き通った甘さの餡。
シンプルにして、至高。
自らの実直な、素直な想いが、その不朽最中に乗るようで。
そんなことを考えながら、また私は不朽園さんに足を運ぶのだろう。