さて、断酒開始から1年が過ぎたが、それからもう1週間以上も経ったのかと思うと早いものだ。
淡々と、過ぎ行く日々のようだ。
=
いろんな方の断酒記録を見ていると、1年というのがまた一つの区切りのようで。
お酒を飲んでいた頃とは全く違う趣味や仕事に精を出すようになっていたり、あるいは交友関係や人脈がまったく違ってきたりする、と書かれているのをよく見かけた。
振り返ってみると、私の場合はそうでもないな、と思う。
お酒を飲んでいた頃と同じお店に顔を出しているし、書くことは続けているし、飲まない私を変わらず酒席に誘ってくださる方と交友は続いている。
何でもやってみないと、分からないものだ。
「変わる」というよりも「深める」ということの方が、私の性に合っているのかもしれない。
そういった意味では、手放すことが下手とも言えるのかもしれないのだが、それもまたよし。
必要なものは、必要なときに与えられる。
=
それでも最近、「あぁ、こんなお酒が飲みたいなぁ」と思わされることがあった。
先のラグビー・ワールドカップの決勝で敗れた、イングランド代表のエディ・ジョーンズ ヘッドコーチ。
前回のワールドカップでは日本代表を率いて躍進の礎を築いた名将の、決勝戦の後のインタビュー記事。
前回のワールドカップにおいてグループリーグ敗退という憂き目に遭っていたラグビーの母国・イングランド代表を甦らせ、見事にオールブラックスを破って決勝まで導いたものの、南アフリカに完敗して栄冠を逃した。
その名称の、敗戦後のの弁が趣深い。
「とても落胆しているが、同時に選手がしたことにすごく感嘆している。彼らはこのワールドカップに向けてものすごくよく準備したと思うし、たくさんのプライドと情熱を持ってプレーした。選手の努力を疑うことはできない。彼らは並外れていた。どれだけハードワークしてきたか。今日は力が足りなかったが、努力が足りなかったからではない」
選手を責めることは全くせず、ただ結果を受け入れるという姿勢に惚れてしまう。
「敗軍の将は兵を語らず」を地で行くような、武骨な受け答え。
それに続いての、この言葉。
「今、気になっているのは何杯かビールを飲むことだけだ。ビールを飲んでリラックスしたい。今日何杯か飲んで、おそらく明日も飲むだろう。そしておそらく月曜日も」
この先のことだとか、敗戦の分析だとか、そんなことよりも「気になっているのはビールを飲むことだけだ」、と。
何と、ジョーンズ氏の美学のあふれるインタビューだろうか。
断酒1年が経過して、「とっても美味しい日本酒」や、「料理との完璧なマリアージュ」のような誘惑には、もうさほど魅力を感じなくなってきた。
けれども、こうしたシチュエーションで飲めるなら、発泡酒でもストロングゼロでも喜んで飲みたいなぁ…と思ってしまった。
そのようなシチュエーションで飲むのは、危険だろうか。
やはり私にとってお酒とは、その味よりも雰囲気や酔いに惹かれるようだ。
そんなことを感じながら、ジョーンズ氏がしこたま飲んだであろうビールを想う断酒377日目であった。
時にお造りは玉手箱のように。