大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。それでも、愛することを諦めきれないあなたへ。

紙がないなら、葉っぱで拭けばいいじゃない。と彼女は言った。

「やべえぞ、とうとうマジック3だ」

「なんですか、朝イチから。始業前くらい、ゆっくりYoutube観させてくださいよ」

「いや、あと残り3ロールなんだよ、ウチの」

「あぁ、なんだ。トイレットペーパーですか」

「もうそろそろなくなるんで、普通に買いに行ったらこれだよ。メーカーには在庫がたくさんあるって言ってるけど、いったいどこで売ってるんだよ、まったく」

「アハハ、落ち着くまでは、しばらく無理かもしれないですね」

「笑いごとじゃねえぞ、まったく…」

「アハハ、まぁいいじゃないですか。そもそも、こんなことでもないと、普通にお尻が拭けるありがたみは分からないですし」

「なんだ、今日はえらく悟ってるな」

「ええ、アタシ、バックパッカーだったんで。世の中には紙が無いトイレも、まだたくさんありますよ」

「そうか…まあそれは正論だけど、現実問題としてだなぁ…ほんと、どうなってるんだ、オイルショックから日本人のメンタリティって変わってないって、ドン引きするよ、まったく」

「まあまあ。結局のところ、他人の行動をどうこう言ったところで、状況は何も変わらないわけですし」

「そうは言っても、ウイルスなんかよりも、集団心理のパニックの方がよっぽど怖いよ。しかも、デマって分かってて、それでも買いに行く輩の気が知れんよ」

「そこに反応するのは、『自分もそうしないといけないのでは?』って不安や怖れが自分の中にあるからかもしれないです。もしそうなら、そこに目を向けて、その不安を抱きしめてあげるといいですよね」

「お…おぅ…」

「って、ばあちゃんが言ってました」

「やっぱり、年配者の言うことは重みがあるな…亀の甲よりなんとやら、だな…」

「ウソですけど」

「なんだそりゃ…でも確かに、自分が実は不安なのはあるかもなぁ…」

「どうでしょう。アタシには分かんないです。もしかしたら、そうかもしれないってだけで」

「まあなぁ…こんだけいろいろ騒がれると、ブレるよな。でもなぁ、必要ないのに買い占めに走るヤカラの気が知れんよ」

「もしかしたら、その人たちは、家族に不便な思いをさせたくない一心で行動してるのかもしれないですし」

「それはそうかもしれないけど。ただなぁ…『囚人のジレンマ』で言われるように、個人の利益の最大化が、全体の利益を大きく損なうことって、やるせないよな。ほんと、誰も得しない」

「何ですか?そのナントカのジレンマって。そんな難しいことや、他人の言動にどうこう言うよりも、どうやったらトイレットペーパーなしで過ごせるか?を考えた方が、楽しいですよ」

「おぅ…そうだなぁ…」

「どうしても無いと、いけないものなんですかね、そもそも」

「いや、無理だろう。無いと」

「ほんとですかね。ウォシュレットと乾燥で何とかなりませんかね」

「いや、俺、ウォシュレット嫌いなんだよ。それなら、毎回風呂場に直行して、シャワーで洗うわ」

「それ、何が違うんですかね…ウォシュレットと?でもほら、それでも何とかなるわけでしょ」

「まぁ…そうとも言うが…それよりも、縄とかの方がきちんと拭けそうだぞ。トイレに縄を張って。21世紀によみがえる、古の叡智!!どうだ」

「いや、そっちの方が衛生的にどうかと…そこは、せっかく時代が下ってるんですから、進化しましょう。やはり、エコよりも衛生面を重視しないと。それで大腸菌とかの感染症に罹ったら、元も子もないです」

「となると、やはり使い捨てになるのか…ティッシュは、流すと詰まるしなぁ…高校生の頃、実家のトイレに毎日流しててメチャクチャ怒られた記憶があるわ」

「なんで毎日流す必要があるんですかねぇ…まったく。でも衛生的には、やっぱり使い捨てですかね」

「あぁ、このご時世、天下のスターバックスもマイタンブラーやマイマグカップへの提供を停止したしな」

「じゃあ、やっぱり葉っぱじゃないですか?」

「は?葉??」

「紙がないなら、葉っぱで拭けばいいじゃない」

「い、いや…それは…もう21世紀ですし…」

「それがいいですよ、自然環境にも優しいですし」

「えぇ…いややわぁ…」

「まあまあ。でも、そうやって、『どうやって、いまの状況を楽しむか』って視点は、今回に限らず大切なのかもしれないですよ」

「そうだな。なかなか難しいことだけどな」

「そう思うだけでも、違いますよ。ということで、今日、外回りでどこかの公園に寄って、拾ってきてください。なるべく大きくてやわらかそうなのを見繕ってくださいね」

「絶対イヤだ」