一週間前は満開だった桜も、散り始めると早い。
けれど、今年の桜はことさらに長く咲いて、人の心を慰めてくれたように思う。
眺めれば、もうほとんどの木が私の好きな葉桜に。
散ったあとの花弁の濃い赤色と、まだ残っている花びらの淡い紅と、そして新緑の色と。
万物清らかなる清明、まさにいまが盛りなり。
「麗らかな」と表現するよりも、少し汗ばむような陽射し。
日に日に、陽の力が増していくような。
ふと目線の先に、白い花を見つけた。
はて、この花の名前は何だろう。
葉の部分はツツジにも似ているが、あまり見かけないような花だが…
よく近くで見てみれば、何のことはなく、桜の花だった。
風に吹かれた一輪の桜が、ツツジの葉の上に舞い降りて、そこに咲いたように見えていた。
春の、悪戯。
それにしても、無数に咲く花を見上げるのと、こうして一輪だけを見るのとでは、こんなにも印象が変わるものなのか、と不思議に思う。
どちらの桜も、美しく。
気付けば、桜がお邪魔していたそのツツジも、もう蕾がふくらんでいた。
桜の季節が過ぎゆき、ツツジの季節へ。
一つ、すでに咲いていた。
初夏の力強い赤紫色が、春の柔らかな風に吹かれて。
葉桜と、ツツジの色を愛でながら。
過ぎゆく春を惜しみながら、次にやってくる新緑の季節を想う。