朝起きると、屋根や車のボンネットの上が、うっすらと白く化粧をしていた。
12月に雪を見るのは、久しぶりのような気がした。
ここ何年か、暖冬が続いているからだろうか。
12月に降るときは、結構まとまって降るような記憶がある。
こんな序曲風に降ることは、珍しいように思う。
クリスマス寒波、年末寒波。
小売りの仕事をしていたときは、その名を聞くたび、慄いていた。
クリスマスケーキに、おせち料理。
ただでさえ年末の忙しい時期に、絶対に遅らせられない商材が揃う。
降雪による交通網の混乱は、しばしば繁忙期の仕事にスリルというスパイスを与えてくれた。
「もっと積もるかなぁ」
窓の外を眺めながら、積雪への期待でワクワクしている息子。
そういえば、雪が降ると心躍ったものだった。
朝からひとしきり校庭で雪遊びをした後、教室の石油ストーブの周りの柵で、手袋を乾かした。
次の授業が終わる休み時間までに、手袋は乾かなかった。
けれど、構わずにそのひんやりとした手袋をはめて、雪を愛でに校庭に走った。
雪の翌日の、日陰の道路沿いで溶けずに残った雪に、泥汚れがついて黒ずんでいるのが、どこか寂しかった。
やはり働き始めてからだろうか、雪を億劫に感じるようになったのは。
それでも、街の風景が白く一変するのは、どこか違う世界のようでいいものだ。
今朝の風の寒さは、そんな記憶を想起させた。
まだ寒さもこれから本番なれど、冬に想いをめぐらせる朝。
寒さ厳しければこそ、春の暖かさが待ち遠しくなる。
闇が深ければこそ、ほんの少しの光でもまぶしく感じられる。
暖冬でも、厳冬でも。
いま、目に映るその世界を、愉しむだけだ。