時に雨水。
冷たい雪が暖かい春の雨に変わり、大地にうるおいを与えるころ。
固く凍った土もやわらかくなり、眠っているものたちも、啓蟄に向けて次第に目を覚ます。
春、近しのとき。
そんな時候だが、朝起きて窓の外を見ると、雪が舞っていた。
真冬が戻ってきたかのような、寒さが戻ってきた。
冬の名残か、あるいは未練か。
名残と書くと霊峰の頂に冠した根雪のように美しくも感じるが、未練と聞くと道路沿いの汚れたべちゃべちゃとした灰色の雪を思ってしまう。
呼び方ひとつで、ずいぶんと変わるものだ。
目に映る事実は、一つだけ。
けれど、それに意味を、色を付けるのは、人の定め。
成し遂げられなかったこと、言えなかったこと、成就しなかったこと。
そんな未練があるとして、それもまた、今日の雪のように白く、そしていつか消えゆくものなのだろうか。
気雪散じて、水と為る。
いつか、また水に還るように。
時に雨水、春に向かう道すがら。