傘を買おうかどうか、迷っていました。
一か月ぶりに、熱田さんへ向かう道中。
出がけには日も見えていたはずだったのですが、徐々に厚い雲に空は覆われ、ぽつりぽつりとフロントガラスを雨足が叩いていました。
ここのところ、置き忘れたり、失くしたりすることがなかったのか、しばらく傘を買っていないような気がします。
家に帰ればあるはずなのに、傘を買うのはどこか負けたような感じがして、何とか止まないかなと思いながら、フロントガラスを眺めていました。
しかし、そんな私の思惑をよそに、雨はいつしか本降りになり、視界が煙るような降り方に変わっていきました。
大雨時行、たいうときどきふる。
まさに、いまの時候そのままのようです。
結局、コンビニに寄って傘を買い、熱田さんの駐車場に着きました。
コンビニで買った傘を差して歩く。
さすがに大雨のせいか、参拝客も少ないような気がします。
水の中にいるような、肌にまとわりつく感覚。
汗が吹き出てくる上に、強い風でスーツの下はすぐにベタベタになり、靴まで水がしみてきました。
雨に濡れる、熱田の杜。
どこか、トトロが出てきそうな感があります。
昨日まで、あんなに青空が見えていたのに。
夏は、どこへ行ってしまったのだろう。
思いのほか、その雨と湿気は体力を奪うようです。
人は、高い温度には耐えらえても、湿度には耐えられない。
いつか聞いたそんなことを、思い出します。
それでも、雨の日にしか、見れられない風景があるようです。
雨水の滴る榊。
こころの小径を歩いていると、雨の日に歩いた熊野古道を思い出します。
傘を叩く雨の音、踏みしめる足の音。
どこか、その一つ一つが、遠い場所に連れて行ってくれるようです。
神鳥さんが、雨の中お出迎え。
晴れの日には、晴れの日を。
雨の日には、雨の日を。
それを味わうのが、いいのでしょう。
道中の驟雨と呼べるような雨に、今日は止めておこうかとも思いましたが、それでも来てよかった。そんなことを感じました。
参拝を終えると、雨はほとんど止んでいました。
せっかく傘を買ったのに…と思いましたが、そんなものなのでしょう。
帰りの道中、車窓から見る空は、もう青空が広がっていました。
窓を開けると、少し湿り気を帯びた、打ち水をしたように涼しい風が入ってきました。
その風は、どこか秋の気配を帯びていました。
いや、まだまだ、夏はこれから。
そう思いながら、私は顔を出した陽の光を見つめていました。