「ビジョンとは、指し示されるものであり、指し示すものである」
禅問答のような、このテーマについて考えてみます。
名著「傷つくならば、それは「愛」ではない」(チャック・スペザーノ博士:著、大空夢湧子:訳、VOICE:出版)の一節から。
1.ヴィジョンとは奈落の底から愛へと飛翔させ、人々があとに続けるように橋を残すもの
ヴィジョンとは、自分自身が裏返しになってしまうほど自分を与えつくすことです。
このような愛や与え方は、はるか遠くの未来のみんなにとってうまくいくやり方を見せてくれます。
ヴィジョンがあなたを無意識の「奈落の底」から飛翔させ、無を超越させるのです。
新しい答えが見えてくるような、より大きな愛の領域に進ませてくれます。
そして、あなたに答えが見えたなら、ほかの人々もついてこられるように橋をかけることができるのです。
あなたは語ることのできないことを語る言葉を見つけることができるでしょう。
ヴィジョンのなかにいるとき、自分の人生の目的を生きています。
自分自身という贈り物を本当に創造的なかたちで与えているので、あなたのあとについてくる人々にとっても道が安全なものとなるのです。
「傷つくならば、それは「愛」ではない」 p.368
2.「ビジョン」は指し示されるもの
今日のテーマは、「ビジョン」でしょうか。
引用文では「ヴィジョン」ですが、なんか舌が絡まりそうで「ビジョン」の方がすわりがいいので、こちらの表記にしております笑
「ビジョン」とは
「ビジョン」の原語である"vision"の意味を英和辞典で引くと、「視覚」「視力」「画像」「洞察力」「幻想」「夢」「将来像」といった意味が出てきます。
しかし、心理学でいわれるところの「ビジョン」は、そのどれとも違うものです。
ヴィジョンとは、自分自身が裏返しになってしまうほど自分を与えつくすことです。
このような愛や与え方は、はるか遠くの未来のみんなにとってうまくいくやり方を見せてくれます。
今日の引用文の冒頭が、端的にそれを表していますよね。
このイメージは、先に見た"vision"の語義とは、ずいぶんと違いますよね。
もう、「自分が裏返しになるくらい」徹底的に与える、与える、与える。
そうした姿が、自分の周りの人や、未来のみんなにとって希望になる、と。
「与えつくす」というと、自分を犠牲にしたりするイメージがあるかもしれませんが、「ビジョン」ではそうではないんですよね。
ガマンしたり、無理をしたり、自分を犠牲にすることとは、かけ離れた場所にあるのが、「ビジョン」です。
そう考えていくと、心理学でいうところの「ビジョン」とは、目標や夢、将来像とも、少し違うようです。
それはどちらかというと、「お役目」「使命」「ミッション」「生まれてきた理由」「人生の目的」「天命」といった言葉に近いのかもしれません。
それは、単に自分が叶えたい夢や目標というものにとどまらず、誰かに与える、そして同じ道を後から歩く誰かに「橋を残す」という性質を持つものなのでしょう。
「ビジョン」とは指し示されるもの
この、「自分ではない誰か(他者)を指向している」というのが、「ビジョン」の大きな特徴です。
個人的な欲求や目標、夢といったものとは違うのが、この点です。
(もちろん、夢や目標より「ビジョン」の方がすぐれているとか、そういった話ではなありません)
「ビジョンとは、指し示されるもの」
心理学では、そんな格言があります。
さししめ「される」。
受け身になっているのが、非常に大きなポイントです。
「指し示す」と、能動的ではないんです。
誰かや何かから「指し示される」のが「ビジョン」である、と。
これは、結構重要で、かつ大きな矛盾をはらむ点です。
なぜなら、いっつもいっつも、「まずは自分」「自分を満たす」というフレーズを、よく聞くことがあります。
私も、このブログで「自分を大切にする」「自分の価値を見る」ということを、ずーっと繰り返し言い続けています。
しかし、「ビジョン」が「指し示される」となると、どこか他人任せというか、自分が無いような、そんな矛盾した感じがするかもしれません。
さすが、「心理学はああ言えばこう言う学」といったりしますが、まさにその通りですよね笑
けれども、決してそれは矛盾しているわけではありません。
プロセスとして見るならば、その時々で必要なことは変わってきます。
たとえば、何らかの大きな問題が起こったとき、どうしても相手の言動に振り回されたりします。
その相手というのは、パートナーだったり、親だったり、会社だったり、あるいはお金だったりするのでしょう。
そうしたときに、まずは「自分の感じていることを大切に」とか、「まずは自分が決めること」と言ったりします。
そうして自分を取り戻していくと、今度は自分のしたいことやライフワークに目が向きだします。
そうしていくと、不思議なことに自分のしていることが、何かに導かれているような、そんなことが起こっていきます。
それは、誰かから「これをやってみたら?」と言われるような分かりやすい場合もあるでしょう。
あるいは、何かがシンクロしたり、偶然に見かけたりするような、一見すると分かりづらい場合もあるのでしょう。
そのどちらも、「自分で決めている」というよりは、「導かれていく」ようなものです。
もちろん、それはプロセスのモデルの一つにすぎません。
けれども、「ビジョンは指し示されるもの」ということの例として、「そんなこともあるんだ」と見ていただければと思います。
3.「ビジョン」は指し示すもの
あるパティシエの方との思い出
さて、「ビジョンは指し示されるもの」ということについて、お伝えしました。
舌の根の乾かぬうちに、真逆の見出しになっていますね笑
これも、別に矛盾しているわけではありません。
引用文の後半部分が、それに該当します。
自分自身という贈り物を本当に創造的なかたちで与えているので、あなたのあとについてくる人々にとっても道が安全なものとなるのです。
ある人にとって「ビジョン」とは、その人に続く多くの人たちの道を照らす灯りになり、希望になります。
「ビジョン」とは、指し示されるものであり、指し示すもの。
それは一見すると矛盾しているように見えますが、どちらも正しいわけです。
以前に、あるパティシエの方とお話させていただいた機会がありました。
「パティシエ」という言葉が一般的になるずいぶん前から、渡仏してフランスの伝統菓子を学び、日本に戻りパティスリーをオープンさせ、その普及に努められていた方でした。
渡仏して学んでいた時期、先人たちの知恵と工夫、技術、そしてその精神に、とても心酔したそうです。
そして、それを日本で伝えること、普及させることを、自分の一つのミッションにした、と。
お話の中で、こうも言っていました。
自分が生きている時間でできることは、限られている。
だから、次の世代にバトンを渡すんだ、と。
自分の時代よりも、次の世代がもっといいものをつくれるようにしていきたい、と。
そんなことを仰っておられました。
「今の時代のやつらは、うらやましいよな。だって、俺がいるんだから」
と、いたずらっぽく笑っておられるのが、たまらなく素敵でした。
私のような若輩が、偉大な職人の方のことを語るのはおこがましいかもしれません。
けれども、その方を思い出すと、まさに「ビジョンは指し示されるものであり、指し示すもの」という語が、一緒に想起されるのです。
またそれは、そのパティシエの方に限った話ではありません。
「人々があとに続けるように橋を残す」
まさに、そのような感覚を持って活動している人に、お会いすることがあります。
「ビジョン」を生きている、といえる方なのでしょう。
かくいう私も、そうした方たちに導かれて、今日があります。
カウンセラーとして、あるいは文筆家として。
その分野での先達がいてくださったからこそ、そして、道を指し示してくださったからこそ、いまの私があります。
それは、「こんなことしても仕方がない」「私なんかが」といった無価値感、無意味感の罠から、私を導いてくれるものです。
ヴィジョンがあなたを無意識の「奈落の底」から飛翔させ、無を超越させるのです。
まさに、引用文の通りだと思います。
「ビジョン」と社会的な価値を結び付けなくてもいい
そしてもう一つ、つけ加えるならば。
そして、その「ビジョン」とは、社会的な価値とか、そういったものとは無関係です。
よく私たちは、社会的な価値や金銭的なものと結びつけてしまいがちですが、決して「ビジョン」とはそうではありません。
もちろん、先に挙げたパティシエの方のように、結果的にそうなる場合もあります。
けれども、それが社会的な価値を持たなかったとしても。
そのことと、あなたの「ビジョン」の素晴らしさは、何も関係がありません。
日々を、丁寧に生きること。
時に我慢をしたりもして、働くこと。
目の前のこの人を、慈しむこと。
家族のためにご飯をつくること。
心を寄せて、感動すること。
ただ、人を愛すること。
それらはすべて、とても素晴らしい「ビジョン」です。
だって、それらはすべて、誰かの道を照らす、あたたかな灯りだからです。
それらは、「ビジョン」の本質そのものです。
「ビジョン」と社会的な価値は、結びつけなくてもいい。
それを、最後にお伝えしたいと思います。
今日は、だいぶまとまりのない感じになってしまいました。
いつもはまとまっているのか?というと、そうでもないのですが笑
「ビジョン」について、少しイメージしやすくなっていただければ、幸いです。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
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