風薫る5月、田植えの季節。
そんな心地よい5月に、京都府宮津市にあります飯尾醸造さんの田植え体験会に、参加してきました。
香り高き「富士酢」で知られるお酢の醸造元である、飯尾醸造さん。
風光明媚な京都府は宮津市で、120年以上もお酢づくりをつづけておられます。
その原材料となるお米から自社でつくり、そこからもろみを仕込み、そこからお酢を醸造しておられます。
その5代目、飯尾彰浩さんが十数年前にスタートさせた、自社の顧客との「田植え体験会」。
ご縁あって、田植えと稲刈りに、何度も宮津に足を運んできました。
自社の商品の製造プロセスを、顧客と一緒に共有することで、ファンを増やしていく。
私も、宮津を訪れて、ますます富士酢のファンになった一人です。
振り返ってみると、前回参加したのは、2018年。
人生の混迷期に、自分自身と深く向き合っていた時期でした。
これまでの人生を振り返る中で、自分のなかの大切なものを、もう一度思い出していく時期でもありました。
そのなかで、この飯尾醸造さんの「田植え体験会」に、何年振りかに訪れることができました。
しかしその後、コロナ禍によって、体験会が2年続けて中止。
今年は、その感染症禍を乗り越えての開催ということで、気合を入れて申し込んだところ、幸運にも当選することができました。
当日、朝4時(!)に自宅を出て、目指すは宮津。
この日は、ぽつりぽつりと雨が降る、曇り空。
田植えには、ちょうどいい天気のようです。
とてもハードワークをしていたころ、あの美しき棚田に、そしてそこで出会う方々に、何度も癒されてきました。
そんな、田植えの記憶が浮かんでは、消えていくようでした。
高速道路を下りると、その記憶と、目の前の景色が、重なったように感じられました。
上世屋の山道を登っていくと、あの棚田が見えてきました。
思わず窓を開けて、声をかけます。
久しぶりに見る、懐かしい顔に、心は踊ります。
集合場所で着替えて、いよいよ田植えスタート。
久しぶりに履く、田植え用の長靴。
「ずぼっ」と入る、田んぼの感触。
そのかたわらで、ぴょんぴょんと跳ねる、カエルたち。
空からは、ウグイスの歌声が。
あぁ、またここに来れたんだ、と感慨深くなります。
飯尾醸造さんの田んぼは、農薬を使わずにお米を栽培しておられます。
そのため、雑草対策が非常に重要。
さまざまな対策を試したなかで、いまはこの再生マルチを使用した栽培をされておられます。
今回は、初めて息子と二人で田植えを。
一緒にできるかな…?という私の心配をよそに、順調に植えていく息子。
はやく苗をよこせ!と怒られます。
それにしても、この体勢は、やはり腰にきます…
すぐに悲鳴を上げはじめた腰に、重ねてきた年齢を感じながら。
初めて訪れたときは、二十代なかばでしたから…
ほっと一息、休憩の時間。
飯尾醸造さんでつくっておられる「紅芋酢」。
この酸っぱさが、疲れを吹き飛ばしてくれます。
もちろん、甘いものも、ぱくぱくとつまみつつ笑
飯尾醸造さんの社員の方と、いろんなお話に花が咲きます。
数年ぶりにお会いするなか、変わらない笑顔が、とてもうれしく。
さあ、もうひと踏ん張り。
お昼ご飯は、用意いただいたお弁当を。
この近くのペンションで、つくっていただいたお弁当だそう。
どれも滋味にあふれていて、じんわりと身体にしみわたるような。
飯尾醸造さんの「クラフトビネガー部」でつくられた、クラフトビネガーがふるまわれていました。
飯尾醸造さんのお酢を使った、4種類のクラフトビネガー。
それぞれ、フルーツや紅茶、香辛料といった、さまざまな材料でつくられた、クラフトビネガーだそうです。
どれも、とっても美味しゅうございました。
手や服を、泥だらけにしながら、一つ、また一つと、苗を手植えしていきます。
どこか、その時間は、瞑想する時間のようで。
川を流れる水の音、鳥の声、カエルの鳴き声…
ただただ、無心になって、苗を植えていきます。
腰を伸ばすために、ふっと顔を上げると、びっしりと植えられた苗が。
この風景を見るのが、とてもうれしいものです。
二千年以上も前から、連綿とこうして、私たちはお米をつくってきた。
毎年、毎年、変わらず、ずっと。
そのことの尊さと、偉大さに、想いを馳せたくなります。
そんなお米からつくられる、純米富士酢。
お米があるこの国で、よかった。
富士酢があって、よかった。
そんなことを想いながら、また一つ、一つと苗を植えていきました。
休憩場所の境内から、田んぼを望みながら。
ほっと一息つきながら、今日ここにこれてよかったと、あらためて感じながら。
コロナ禍で、なかなか開催ができなかった時間がありましたが、それだけに、こうして無事に開催されたことが、ありがたく。
植えた苗が、大きく大きく育ち、たくさんの実をつけますよう。
そして、美味しい美味しいお酢になりますよう。
そんなことを祈りながら、最後にもうひとふんばり、また苗を植えていきました。
相変わらず、ウグイスとカエルが、鳴いていました。
飯尾醸造の皆さま、大変お世話になりました。
貴重な体験会を、ありがとうございました。