ある時期において、なぜかメロディが頭から離れない曲、というものがある。
それがずっと続くのではないが、気づくとそのメロディが頭の中を流れていたり、フレーズを口ずさみそうになったりする曲がある。
そんな経験は誰にでもあるように思う。
最近の私の脳内はこの曲が流れている。
一人でいるとこの美しい旋律が頭をよぎる。
J.S.バッハの「ブランデンブルグ協奏曲第5番 第2楽章」。
ブランデンブルグ協奏曲の第5番というと流麗な第1楽章が有名で、私もずっとこの第1番を好んで聞いていたのだが、ここのところは嗜好が変わったようにこの第2番が心に響く。
ブランデンブルグ協奏曲は第1番から第6番までそれぞれの曲で楽器の編成が異なり、それが様々な表情を映し出す。
ちなみに第6番は独奏楽器はなく、またヴァイオリンが参加しない珍しい編成でビオラの音色にとても萌える。
この第5番はフルート、ヴァイオリン、チェンバロの三つ。
華やかで流麗な第1楽章とはうって変わって、夜半の湖の水面に映った月影を縁取っていくような、静かな旋律。
この楽章では、ソロパートのみで伴奏楽器の演奏はない。
フルートとヴァイオリンの掛け合いに、チェンバロが黒服が歌姫のドレスの裾を持つように伴奏をする。
異なる三つの楽器がこの楽章の旋律を繰り返すたびに、夜は更け下弦の月はゆっくりとその場所を変えていく。
この2楽章の楽譜に記された演奏記号は「affettuoso(アフェットゥオーソ)」。
愛情を込めて、優しく、という指示の記号。
バッハがこの短調のもの哀しくも美しい第2楽章に、この演奏記号を付けたのが素敵すぎる。
揺蕩いながらも、三つの楽器の奏でる月影は確信をもって地平線へ沈んでいく。
漂えど、沈まず。
美しき第2楽章の月影。
もう、ここのところ毎日車の中でずっとこの曲をリピート再生し続けている。
そうした一時的にハマるものには、とことん身をゆだねるのがいいように思う。
おそらくは、無意識的に自分がいま必要なものを取り込もうとしているのだから。
飽きるまで聴いたら、必ずまた次にハマるものが見つかる。
そうやって、世界を味わい、楽しみ尽そう。