朝から気持ちよく晴れた春の日。
気持ちよく晴れ過ぎて花粉が絶好調のようで、寝起きからくしゃみが止まらない。
息子と娘の入学式だった。
桜も今年はのんびりとしてくれて、息子の希望通りに入学式の日まで、その花を散らさずに保ってくれた。
ランドセルを背負って、一緒に通学路を歩く。
三十数年前に通った私の通学路を思い出す。
私の実家は学区のはずれの方で、子ども足では結構な時間がかかったように記憶しているが、いま実際に歩いたらまた違った感慨を受けるのだろうか。
入学式の看板の出ていた正門を通って、下駄箱でスリッパに履き替える。
私の通った小学校の下駄箱は、どんな形だったのだろうか。
思い出せない。
そんなことを考えながら、教室に入る。
こんなに狭かったのだろうか、と思った瞬間、ダメだった。
涙腺があふれた。
花粉症のふりをして、トイレに逃げた。
立派におめかしした新一年生の男の子にまじってトイレを済ませながら、38歳の男が涙がこぼれないように天井を見上げていた。
三十数年前、私もそうだったのだろうか。
見守られ、手を引かれ、そこにいた。
生きるとは、愛を思い出す旅。
そうなのかもしれないと思った。
三十数年前も、こんな青空の色だったのだろうか。
生きるとは、愛を思い出す旅。
忘れても、また思い出せばいい。
生きるとは、愛を思い出す旅。
いつか思い出すから、安心して揺蕩っていればいい。