大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

書評:落合陽一氏著「2030年の世界地図帳 新しい経済とSDGs、未来への展望」に寄せて

「現代の魔法使い」と称される落合陽一氏が昨年の秋に出版された、「2030年の世界地図 あたらしい経済とSDGs、未来への展望」(SBクリエイティブ)の書評を。

昨年の春ごろだっただろうか、某メガバンクの行員の方とお話しした際に、襟元に見慣れないカラフルなドーナツ型のバッジをつけておられるのを目にした。

興味本位で、そのバッジは何のバッジですか?と伺った際に、初めて「SDGs」の存在を知った。

持続可能な社会に向けての具体的な目標設定に賛同しているんです、という丁寧な説明をその方から頂いたのだが、本書では「はじめに」で「SDGs」について詳しく触れられている。

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、持続可能な世界の実現のために定められた世界共通の目標のことです。「持続可能な世界」とは、今現在生活している私たちの要求を満たし、かつ、将来の世代が必要とする資産を損なうことのない社会のことです。その実現のために、貧困から環境、労働問題まで17のゴールを掲げたSDGsは、2010年の国連サミットにおいて全会一致で採択され、2030年の達成を目標としています。

 

「2030年の世界地図帳 新しい経済とSDGs、未来への展望」

落合陽一氏著 P.9

かつて、学生時代に一般教養で取った倫理学の講義の中で、聞いた話を思い出す。

いわく、現代の倫理学においては、「平等」という概念が従前よりも広げており、いま現在、世界に生きる人間の間の平等のみならず、将来生まれてくるであろう世代の人間との平等も、考えていかなければならない、と。

もう20年も前の講義の話しであり、いまはまた変わっているのだろうが、それでも当時の私は、なぜかその講義の話しが、興味深くて心に残ったものだ。

SDGsもまた、「持続可能な世界」において、「将来の世代が必要とする資産を損なうことのない社会」を目指す、という。

明らかに、今世紀に入って台頭してきた思想である。

そのSDGsをベースにしながら、テクノロジーが変えていく世界のデータに基づく「地図」を、多く掲載しているのが本書である。

以前に「FACT FULNESS(ファクトフルネス)」の書評で、いかに私たちは一度得た古い知識に振り回されて、きちんと世界を見ることができないかを書いた。

世界は一日、また一日と新しい姿に変わっていくのに、こと私たちときたら、学校で見聞きした情報を、そのまま不変のものと思い込んでしまう。

たとえば、1990年代にはアメリカに次いで世界第2位だった日本のGDPは、すでに中国に抜かれて第3位になって久しい。

本書に掲載されている予測では、2030年にはインドに抜かれて世界第4位になり、さらに2050年にはインドネシアにも抜かれて第5位になる見通しである。

21世紀は中国とインドの世紀であると言われてきたくらいの認識はあったが、インドネシアもそれほどの経済成長を遂げるとは、恥ずかしながらそこまでの認識はなかった。

その他にも、アフリカでの電子マネーの急速な普及など、新しい常識が「地図」をもとにわかりやすく明示されている本書は、常識のアップデートを助けてくれる「世界地図」である。

あまりに速いテクノロジーの発展は、大きく世界の在り方を変えていく。

いたずらに、それに不安になるよりも、まずは事実をデータから知ることが大切なのだろう。

漠然とした不安は具体的になると消えるように、まずは事実を知ること。

本書の「はじめに」においても、明確にそのことについて語られている。

2019年の世界は、人類の文明が行き着いた巨大な混沌の中にあります。

(中略)

資本主義が世界全体を覆いつくす位峰、貧富の差はますます拡大し、開発途上国のみならず先進国に暮らしていても、深刻な貧困に脅かされている人は珍しくありません。要因も多岐に渡るため貧困や格差を認識するのは年々難しくなっています。

(中略)

これほど技術革新のペースが速い時代には、10年先の仕事内容や働き方を想像する事すら難しいと感じられます。そういった観点で、何か具体的な目標に立脚して身の回りの物事を考えてみる必要があると思っています。その点においては、後述するSDGsのように、ゴール年度と具体的目標を定めて行動指針を定める価値はより高まっているかもしれません。

 

同上 P.3.4

2030年というと、私の世代だとSFの近未来のような感じを受けるが、もうわずか10年先のことである。

その未来を見据えるために、様々な現在の世界のベースになっている考え方、そしてそれに基づくデータを豊富に提示してくれる本書。

常識を、止まることなくアップデートしていこうと思う。

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