肌寒い日が続いたあとは、春の陽気が訪れる。
三寒四温とはよく言ったもので、冬のコートの出し入れに悩んでいるうちに春はやってくる。
その日の日中は、少し汗ばむような陽気の日だった。
春の陽気というのは、なぜあんなにも、人をぼんやりとさせるのだろうと思う。
それでも、陽が沈んだあとの風は、やはりまだ冷たい。
そんな日の夜に、刈谷市の「魚屋ごんべえ」さんを訪れた。
少し肌寒い春の夜の闇に浮かび上がる、暖かな灯り。
先週、ちょうど臨時休業の日に来てしまって地団駄を踏んだが、ようやくこの灯りを訪れることができた。
店頭に掲げられた本日の献立。
何度も書いている気がするが、これを眺めている時間が、至福の時間である。
遠足は行くまでが楽しいように。
夢もライフワークも願望も、過程が楽しいのだ。
カウンターに腰を下ろして、ぼんやりと天井を眺める。
椅子を通って、一日の疲れがどこかへ流れていく。
かつをたたきサラダ、そしてノンアルコールを。
しみじみと、旨い。
大将と、ぽつりぽつりと話す。
ここのところのウイルスの騒動について、などなど。
こういうときこそ、大切な場所には足を運びたいと思う。
結局のところ、問題が教えてくれるのは、自分が大切にしているものなのかもしれない。
「生ほたるいか天」を。
富山からやってきた、大きな大きなホタルイカ。
口に含むとミソが溢れ出て、滋味が広がっていく。
お好みで、天つゆを。
その身体から溢れる滋味は、ようやく訪れた春を教えてくれる。
ちいさな、ちいさな身体いっぱいに、春の息吹を詰め込んで。
春が、やってきた。
その喜びとともに、ほたるいかを愛でる。
最後はいつもの「サバの塩焼きと豚汁定食」で。
安定の、旨さ。
日本に生まれて、和食が食べられてよかった。
手をよく洗うこともそうだが、身体を動かすこ、笑うこと、そして美味しいものを食べること…
ウイルスに負けないように、自らの免疫を高めるために必要なことは、いつもの生活を、丁寧にすることなのだろうと改めて思う。
ごんべえさん、ごちそうさまでした。
また来ます。