白が、お辞儀をしていた。
カメラの日付を見ると、5日ほど前らしい。
紫の蕾が、生きものの手のようにも見えた。
ふと、同じ場所を今日通りかかったところ、白にその紫が加わっていた。
お辞儀をしていた背も、まっすぐに天を向いていた。
何も変わっていないように見えて、日々移ろいゆく季節。
その花は、春紫苑、ハルジオンという名だそうだ。
春に咲く、紫苑。
花言葉は、追憶の愛。
追憶、という言葉に、私はいつも感慨を覚える。
別離と寂しさというのは、私の中で特別な意味を持つ。
さりとて、いったい私たちは、忘れるということができるのだろうか。
今生ではもう会えない別れがあったとして、忘れることができるのだろうか。
いつか、どこかで。
また、会えるような気がするならば。
忘れるということは、できはしないようにも思う。
それは、ボウルの中に割ってかき混ぜた卵から、一つだけを取り出すことができないように。
その天を向いた春紫苑の白と紫が、不可分なように。
忘れるということもまた、不可能なように思う。
巡る季節のように。
いつか、どこかで、また。