日に日に増してきた夏らしさも、一休みのようだった。
夜半から降り出した雨は、優しく地面を濡らしていた。
少し雨が降りやんだところを見計らって、軽く走りに出る。
ここのところ、日中は心地よいというよりも暑いと感じる方が多く、気怠いことがあったが、今日は涼しく心地がいい。
やはり身体が慣れるのには、時間がかかるのだろう。
川沿いの桜並木も、しっとりと雨に濡れていた。
半袖か長袖か迷って、長袖にしておいたが、やはり走り始めると暑くなってくる。
ふと、白い点に目が留まる。
ひょっとして。
桜だった。
5月も中旬になろうとしているのに、雨に濡れてしまっているのに。
健気に、咲いていた。
今月の頭に、別の場所で咲いているのを見かけたが、まさかこんな立夏を過ぎても咲いているとは、思いもよらず。
思いがけず、4つ葉のクローバーを見つけたようで、嬉しくなる。
5月10日の、桜。
こんなに遅くまで咲く桜を、私はこれまで見たことはなかったように思う。
果たしてそれは、ほんとうになかったのか、それとも見つけようとしなかっただけなのか。
もしかしたら、今日のように遅くまで咲いていた桜も、あったのかもしれない。
それも、見ようとしなければ、「無い」ことと同義なのかもしれない。
人は、見たいように世界を見る。
5月10日の、桜。
立夏の雨に濡れた、小さく淡い花弁。
見たいように、世界は見える。