大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。それでも、愛することを諦めきれないあなたへ。

問題を解決しようとするよりも、ビジョンを観ることを。 ~クワガタ戦記2020

梅雨入り前の時期、一昨年、昨年とお世話になった同僚の「クワガタ先生」から目撃情報が入った。

そう、クワガタである。

梅雨入り前のこの時期から出始め、梅雨明けからはカブトムシと入れ替わる。

息子にそれを伝えると、一にも二にもなく、すぐ行く、と言う。

今年も付き合ってくれると言う同僚の先生とともに、週末の早朝に「Xデー」を設定した。

折しも、緊急事態宣言も解かれ、学校も始まった週だった。

都合3か月という、異例の長期休暇明けの学校は、なかなかに慣れずしんどいのだろう。

それはそうだ。

いままでステイホームという錦の御旗のもと、のびのびとゲーム三昧で過ごした後だ、なかなかすぐに元通りというわけにはいかないだろう。

これまでの遅れを取り戻そうと、カリキュラムも急ぎ目になる。

学年が上がって、新しいクラスにも戸惑うかもしれない。

まして、この暑い中でのマスク着用など、感染症対策の「新しい生活様式」を強いられるストレスもあるだろう。

そんな中で、「クワガタ捕り」という言葉は、どれほど息子の心に希望を灯しただろうと思う。

今年も、早朝から付き合ってくれる同僚には、感謝の念しかない。

けれど、前日からワクワク全開の息子を見るたびに、心配性の私はソワソワしだす。

これだけ楽しみにしていて、もしクワガタが捕れなかったら。

その時のガッカリした息子の顔を想像すると、どうしてもソワソワしてしまう。

それは、喜び、楽しみへの怖れなのか、あるいは抵抗と呼ぶべきものなのか。

なにはともあれ、熱帯夜で寝苦しい前日の夜は、眠りが浅く、なかなか寝付くことができなかった。

隣で眠る息子は、2,3時間おきに「ぱちり」と目を覚まし、時計を見ては「あと、〇時間だね」とその喜びを伝えるために私を起こしてくる。

そんなにも楽しみにしていることがあることは、すばらしいことだ。

明日の希望さえあれば、宿題もテストも、何も問題ではなくなる。

結局のところ、問題を解決しようとするよりも、ビジョンを見た方が早いのだ。

もちろん目覚ましのアラームよりも早く目覚めた息子と私は、いそいそと着替え、車に乗り込む。

パンをかじりながら、息子は「いまはどこ?」「あと何分で着くの?」と何度も問いかける。

折しも前日、息子にとっては些細なことで先生に怒られたりしたようだが、そんなことは彼の脳裏に微塵もないのだろう。

ダービーや有馬記念の週の金曜日に、いくら取引先とモメようが、上司から理不尽にどれだけ怒られようが、何も気にならない事象に似ている。

ランデブー・ポイントには、早めに着いた。

クワガタ先生は、もう待っていて下さった。

気恥ずかしそうにする息子。

すぐに目的地へ一緒に向かう。

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一年ぶりに訪れたその公園の森は、記憶よりもその濃さを増したようだった。

ヤブ蚊が飛び回っているのが裸眼にも見え、長袖のシャツの上に何匹も止まっているのを振り払う。

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天気も晴れてくれた。

見たことのない形の虫たちが、草の上で羽根を広げているのを見る。

その中を、半袖短パンサンダルで進んでいくクワガタ先生。ワイルドだ。

耳障りな羽音を立てて、大きな蜂が飛んでいくのを見て、首をすくめる。

息子は必死に後ろをついて歩いている。

藪をこぎながら、巨大な毛虫に怯えながら、それでも。

目指すは、クワガタの集まる、あの古木。

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やがて、目的地へたどり着く。

くまなく探すと、いた。

木の幹に空いた穴の中に、潜んでいた。

こんなときのためにと持参した竹串を使って、捕獲する。

見事なノコギリクワガタのオスだった。

破顔一笑の、息子。

よかった、本当に。

ようやくほっとする。

結局この日は、もう一匹ノコギリクワガタのオスを捕まえることができた。

クワガタ先生に御礼を言っての、自宅への帰り道。

二つの虫かごに入ったクワガタを、息子はずっと眺めていた。

「好き」が持つエネルギーと、それがもたらす恩恵。

毎年、息子は私にそれをまざまざと見せてくれる。

問題を解決しようとするよりも、ビジョンを観ることを。

今年は、そんなことを想いながら、ハンドルを握る私は我慢できずにあくびを繰り返す。

不安からの解消からか、それとも単に寝不足からか。

早起きのおかげで、まだ一日は始まったばかりだ。

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