雨が降ると、音がする。
傘を叩く音。
その音符。
木々の葉に触れる音。
そのざわめき。
土に吸い込まれていく音。
そのやわらかさ。
雨が降ると、音がする。
音がすると、思い出す。
=
たとえば、ある音を聴くと、ある種の記憶がありありと思い出されたりする。
記憶というものは、「音」と密接に結びついている。
それは、
スパイクが土を噛む音だったり、
玄関のドアを開ける音だったり、
鍋の煮える音だったり、
あるいはブランコの軋む音だったり。
人それぞれに、その「音」を聞くと思い出す記憶がある。
その記憶は、自らの内に眠っているのだろうか。
普通に考えると、いつかどこかで得たその記憶は、自らの心の奥底のやわらかな場所に仕舞われているように思える。
けれど、もしも、それが「音」に宿り、仕舞われているのだとしたら。
=
降りしきる雨の音。
時に三連符のように規則的で、時にばらばらと不規則で。
その「音」。
それは、いつかどこかの、誰かの記憶かもしれない。
その「音」は、誰が与えてくれた贈り物なのだろう。
雨に濡れて。