何かの音で、目が覚めた。
虚ろな思考が、雨の音だと気づくのに、しばらく時間がかかった。
暗がりの中で、再び眠りに落ちようと試みたが、なかなか寝付くことはできなかった。
身体は眠りを欲しているような気もしたが、思考は雨の音に興味を示してしまったようだった。
仕方なく、窓を少し開けて、真夜中の景色を眺めた。
雨の、匂い。
少し土埃を含んだような、その温さが鼻腔をくすぐった。
その匂いと、そこかしこを雨が叩く音がする以外は、何も変わらない夜の風景のように見えた。
丑三つ時、真夜中の雨。
雨粒以外に動いているものは、何もなかった。
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なぜ、雨は降るのだろう。
眠ることをどこか拒む頭は、そんなことを考える。
なぜ、雨は降るのだろう。
別のニュアンスで、そう思ったことが何度かあったことを思い出す。
雨は、どこか記憶を呼び覚ましてくれるようにも思う。
その土くれのような、草いきれのような、その匂いからなのか。
それとも、規則的なようでどこか不規則な、その音からなのか。
雨の、記憶。
傘を叩く音、水たまりを踏む音。
靴の隙間から伝わる、濡れた感覚。
晴れてほしい日、降ってほしい日。
こちらの願いとは関係なしに、雨は降る。
雨の日には、雨の風景、美しさがある。
それはそうなのだが、真夜中の雨には、その美しさも感じようがなかった。
再び窓の外を眺めてみたが、相変わらず暗闇の風景は何も変わらずにいた。
鼻が慣れてきたせいか、雨の匂いは薄れたような気がした。
同時に、雨の記憶もどこかへ霧散したようにも思えた。
雨の、記憶。
その記憶を失くさないように、そっとしまった。
それが、どこか分からなかったのだけれど。
朝を迎えても、雨は降り続いていた。
ずいぶんと遅くなった日の出に、いつもよりも薄暗い朝だった。
傘を叩く音に、どこかにしまった記憶が、また漏れだしそうになった。
けれど真夜中とは違って、目に入ってくる雨の風景は、その記憶とはどこか違うようだった。
記憶はどこかへ散っていった。
昼過ぎには、雨は止んだ。
驚くくらい早く、雨の痕跡は消えていった。
段々畑のような雲を見上げて、なぜ雨は降るのだろうと、もう一度考えてみた。