大嵜直人のブログ

たいせつな何かをなくした心に、ともしびを。

真夜中の雨。

何かの音で、目が覚めた。
虚ろな思考が、雨の音だと気づくのに、しばらく時間がかかった。

暗がりの中で、再び眠りに落ちようと試みたが、なかなか寝付くことはできなかった。
身体は眠りを欲しているような気もしたが、思考は雨の音に興味を示してしまったようだった。

仕方なく、窓を少し開けて、真夜中の景色を眺めた。

雨の、匂い。
少し土埃を含んだような、その温さが鼻腔をくすぐった。

その匂いと、そこかしこを雨が叩く音がする以外は、何も変わらない夜の風景のように見えた。

丑三つ時、真夜中の雨。
雨粒以外に動いているものは、何もなかった。

なぜ、雨は降るのだろう。
眠ることをどこか拒む頭は、そんなことを考える。

なぜ、雨は降るのだろう。
別のニュアンスで、そう思ったことが何度かあったことを思い出す。

雨は、どこか記憶を呼び覚ましてくれるようにも思う。
その土くれのような、草いきれのような、その匂いからなのか。
それとも、規則的なようでどこか不規則な、その音からなのか。

雨の、記憶。

傘を叩く音、水たまりを踏む音。
靴の隙間から伝わる、濡れた感覚。

晴れてほしい日、降ってほしい日。
こちらの願いとは関係なしに、雨は降る。

雨の日には、雨の風景、美しさがある。
それはそうなのだが、真夜中の雨には、その美しさも感じようがなかった。

再び窓の外を眺めてみたが、相変わらず暗闇の風景は何も変わらずにいた。
鼻が慣れてきたせいか、雨の匂いは薄れたような気がした。

同時に、雨の記憶もどこかへ霧散したようにも思えた。

雨の、記憶。
その記憶を失くさないように、そっとしまった。
それが、どこか分からなかったのだけれど。

_______________

 

朝を迎えても、雨は降り続いていた。
ずいぶんと遅くなった日の出に、いつもよりも薄暗い朝だった。

傘を叩く音に、どこかにしまった記憶が、また漏れだしそうになった。
けれど真夜中とは違って、目に入ってくる雨の風景は、その記憶とはどこか違うようだった。

記憶はどこかへ散っていった。

昼過ぎには、雨は止んだ。
驚くくらい早く、雨の痕跡は消えていった。

段々畑のような雲を見上げて、なぜ雨は降るのだろうと、もう一度考えてみた。

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