A(えい)。
いい響きである。
たとえば、将棋における順位戦の最高クラスは「A級」である。
「神童」と称されるような天才たちの中の、ほんの一握りがなれるプロ棋士、その中で「A級順位戦」に在籍できるのは、わずかに10人。
その10人の総当たりで、もっとも歴史あるタイトル「名人」への挑戦権を争う。
たとえば、ずっと「エースで4番」だった人たちが集まる、プロ野球。
セントラル、パシフィック、各6チームのうち上位3チームが「Aクラス」と称される。
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以前に小売りの仕事に就いていた時代、中日ドラゴンズが優勝すると「優勝セール」を実施していた。
折しも当時、落合博満監督のもと、ドラゴンズは常にセ・リーグの優勝争いに絡んでいた。
マジックが2以下になると、当日のドラゴンズと2位チームの試合結果によって、翌日の営業体制が変わるのだから、帰りが遅くなるものだった。
セールが好評だったこともあり、そのうちに対象となるドラゴンズの成績が「優勝」から拡大していった。
「クライマックスシリーズ」で負けても、「残念セール」という具合に。
今年はコロナ禍でクライマックスシリーズがなかったが、例年、3位までのチームがクライマックスシリーズに進出する。
Aクラス、である。
セールの準備をしながら、「3位でもセールやるなら、もうずっと毎年セールじゃん」と同僚と言い合っていたことを覚えている。
今思えば、幸せな時代だった。
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ところが、である。
栄枯盛衰、盛者必衰、奢れるものも久しからず。
落合監督から高木守道監督に変わった2012年に2位になって以来、ずっと4位以下=Bクラスに沈む年が続いてきた。
何のことはない。
ただそこに「あった」だけものものを、「当たり前」と勘違いしていただけだ。
毎年、春には「今年こそは…」と期待を込めるのだが、交流戦前には失速、夏には早くも秋風が吹き始めるシーズンが続く。
「勝ち負けは兵家の常」とはいえ、負けが続くことは堪えるものだ。
そのうちに、「生粋のカープファン」の同僚の応援する広島東洋カープは、なんと25年ぶり(!)のリーグ優勝を達成し、それにも飽き足らず3連覇まで成し遂げた。
25年ぶりの美酒の味に、同僚は幸せそうな顔をしていた。
うらやましいこと、この上ない。
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前置きが長くなり過ぎだ。
中日ドラゴンズが昨日の試合に勝ち、今シーズンのAクラスを確定させた。
実に8年ぶり、である。
与田監督は就任2年目にして、球団最長となっていた負の歴史に終止符を打った。
残念ながらコロナ禍のシーズンで「クライマックスシリーズ」は行われないが、来年以降に希望を灯す勝利だった。
それにしても、怪我人が続出する中、よくぞここまで、と思う。
昨日の試合は、今シーズン無双の投球を続ける大野雄大投手が7回無失点、チームを支え続けた救援陣もそれに続いた。
大野投手は、自身の入場曲を吉見投手が使っていたモンキーマジックの「ただ、ありがとう」に変更して、慕う先輩への感謝を示した。
奇しくも、同日、落合監督時代の黄金期を支えたエース・吉見一起投手の引退会見が行われていたからだ。
その吉見投手が、引退会見の中で謝辞を向けたのは、かつての正捕手であり、監督も務めた谷繫元信氏だった。
今日の勝利は、チームが沈む苦しい時代を支えた、彼らの勝利でもある。
感情も、人生も。
沈むときもあれば、浮くときもある。
沈んだら沈んだだけ、浮いたときの御馳走だ。
今日は、いい日じゃないか。
与田監督就任初年度だった、昨年のナゴヤドームにて。
後ろに道があるから、前進できるんだ。