子どものためにしているように見えて、実は親自身のためになっていることがある。
何のことはない、子どもとは最高の教師であることに気づかされる。
私にとっては、野球観戦が、そうだった。
息子が喜ぶかと思って、野球を観に連れていくたびに、自分自身の幼いころの父とのつながりを思い出す。
あのカクテルライトのナゴヤ球場、ビールを飲んで赤ら顔の父。
白球の行方に、誰もが歓声を上げていた。
思春期を迎え、単身赴任となった父との距離が開くにしたがって、野球観戦からも足が遠のいていった。
ドラゴンズの本拠地も、あのナゴヤ球場からナゴヤドームへと移転していた。
悲しいできごとがあり、自分が楽しむことを抑え込む中で、ナゴヤドームは近くて遠い場所だった。
息子が、それをまたつながてくれたように思う。
その息子は、今日はお留守番。
一人で、野球場の空気に、ライトスタンドの熱気に、浸りたかった。
いろんな性格診断や、姓名判断を受けても、必ず言われるのが「一人の時間が重要」ということだ。
獅子座の、性なのかもしれない。
そんな私だが、それでも周りの目は気にするものだ。
この日は、右隣は学生と思わしき若い3人組、左隣はカップル連れ。
それでも、周りを見渡せば、私のように一人で来ていると思わしきファンもいた。
足を運ぶ。
声援が、力になる。
なんとか、一緒に勝利を。
そんなことを、本気で信じているファンたちだ。
今日の先発は、エース・小笠原慎之介投手。
まっさらなマウンドに、ゆっくりと歩みを進める小笠原投手。
ホームチームの先発投手にのみ与えられる、唯一無二の時間。
この光景が、何よりも好きだ。
久しぶりのライトスタンドは、記憶の中のそのままに、熱気に満ちていた。
応援する選手と、チームと、何とか勝利を。
その想いで、声援を送る。
グラウンドから見たら、私は豆粒のなかの一人かもしれない。
それで、いいのだ。
そこにいるときは、私は誰かにならなくてもいい。
それが、いいのだ。
試合は息のつまる投手戦となり、我慢比べのような戦い。
小笠原投手は、7回1失点で降板。
先発としてはこれ以上ない働きに、勝ちがつかないのは残念ではある。
1点をめぐる、手に汗握る攻防。
8回のマウンドに上がったのは、祖父江大輔投手。
安定した投球でブルペンを支える祖父江投手が、しっかりとバトンをつなぐ。
そして9回は守護神ライデル・マルティネス投手とつなぎ、失点を防ぐ。
しかし、打線は9回裏にサヨナラのチャンスを迎えるも、相手投手も踏ん張り、決着がつかず延長戦へ。
引き分けも頭によぎり始めた11回裏。
2死から満塁の好機から、ルーキー・村松開人選手が値千金のサヨナラタイムリーヒット。
狂喜乱舞のライトスタンド。
見知らぬ周りのファンたちと、喜びを分かち合う。
鳴りやまない歓声は、小さな私が聞いたそれと、同じだった。
勝負を決めた村松選手の、ヒーローインタビュー。
そういえば、小さな私もヒーローインタビューが好きだったことを思い出す。
あの遠きナゴヤ球場は、燃えているのだろうか。
サヨナラ勝ちが、童心を思い出させてくれた。
また、応援に行こう。
小さな私を、笑顔にしに行こう。