隣の娘が、暗闇の中でごそごそと寝返りを打っていた。
小さなころから寝つきが抜群によかった娘にしては、めずらしい。
「寝れないの?」
「うん」
日中、公園で友だちとたくさん遊んだ反動か、夕食後にうたた寝をしてしまったせいだろうか。
娘にしてはめずらしいが、そんな日もある。
デリケートで寝つきがよくなくて、よく夜泣きをしていた息子に比べて、娘の寝つきのよさには助けられてきたものだ。
「トントン、する?」
「うん、トントンして」
赤子のころ、よくトン、トンと肩を叩いて寝かしつけをした。
最近は勝手に一人で寝付くので、そんなこともしていなかったから、久しぶりだった。
布団の上から、トン、トンとゆっくりと肩を叩く。
いつか、私もそうされていたように。
トン、トン。
トン、トン。
深く、呼吸を重ねながら。
「おとう」
「なに?」
「なんで人間って、」
娘の口から発せられた、人間、という言葉にドキリとする。
その先の質問をあれこれ想像して、一瞬身構える。
「なんで人間て、トントンされると落ち着くの?」
難解なテーマではなかったようで、少しほっとする。
「なんでだろうなぁ」
言いながら、なぜだろうと考える。
トン、トン。
「心臓の音に近いからかな。生まれる前のことを、思い出すから、落ち着くのかなぁ」
そう言う間に、娘はもう寝息をたてていた。
返事は、ない。
トン、トン。
トン、トン。
もう少し、このまま。
トントンと叩いていようと思った。