大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

待ちきれない。

時に、1989年11月9日。
ベルリンの壁、崩壊。

ツルハシで壁を壊し、その欠片を拾ってカメラに見せ、雄たけびをあげる男性。
壁の上に二人で座り、ピースサインを掲げる男女。

そんな大騒ぎが、テレビのニュース番組に映し出されていた。

なぜドイツが東と西に分かれているのか、
なぜベルリンに壁があるのか、
なぜそれが壊れたのか、
そしてなぜそこに映し出される人々がこんなにも興奮しているのか、
当時小学生だった私には、分からなかった。

けれど、その映し出されたドイツの人々の、興奮した眼差しは、幼いこころに印象に残っている。

あの、眼差し。

無論、分断されていた祖国が、再び統一されることへの希望と喜びがあっただろう。
そして、そのように歴史が動いたこと、その場に立ち会えたことに対する興奮と、胸の高鳴りだったのだろうか。

あの眼差しを思い出すとき、そんなことを想う。

アーモンドアイが、ジャパンカップ参戦を決めた。

すでに出走を表明している牝馬三冠・デアリングタクトと牡馬三冠・コントレイルという無敗の三冠馬2頭に加えて、先輩の三冠馬であるアーモンドアイが出走。

長い日本競馬の歴史において、三冠馬の対決というのはこれまで4度ある。
ミスターシービーとシンボリルドルフが、1984年のジャパンカップと有馬記念、1985年の天皇賞・春と計3度。
オルフェーヴルとジェンティルドンナが2012年のジャパンカップ。

だが、3頭の三冠馬の激突というのは、史上初めてのことになる。

そもそも三冠馬自体が、牡牝あわせてもこれまでの歴史上14頭しか誕生しておらず、それがサラブレッドの短い現役期間が重なること自体が稀である。

しかも、史上初めて無敗で牝馬三冠を制したデアリングタクト。
父・ディープインパクト以来の無敗の三冠馬・コントレイル。
そして、史上最多のGⅠ・8勝を誇る牝馬三冠馬・アーモンドアイ。

舞台はチャンピオン・ディスタンスである府中の2,400m、ジャパンカップ。
この報せに、ドキドキしない競馬ファンがいるだろうか。

「世紀の一戦」。

月並みだが、そんな形容しかできないようなレースになる。
こんなメンバーが走るレースは、もう生きているうちに二度と見られないかもしれない。

この胸の高鳴りは、歴史が刻まれることに、その瞬間をともに生きられることへの興奮なのだろうか。

それは、あの幼い日にテレビで見た、壁の前で両手を挙げる人たちの眼差しと、似ているのかもしれない。

「世紀の一戦」と聞いて思い浮かぶのは、1992年の春の天皇賞か。
前年、無敗で皐月賞・ダービーを制しながら無念の骨折で三冠獲りはならなかったものの、復帰戦を圧勝していたトウカイテイオー。
菊花賞、天皇賞・春を制して最強古馬に君臨していたメジロマックイーン。

テイオーの岡部幸雄騎手の「地の果てまでも走れそう」とのコメントに、マックイーンの武豊騎手は「あっちが地の果てなら、こっちは天まで昇りますよ」と返す。
トップジョッキーのリップサービスも相まって、「世紀の一戦」と称された。

結果は、メジロマックイーンが長距離GⅠ・2勝の貫録を見せつけて勝利。

または、1998年の毎日王冠あたりか。

無敗を誇る怪物4歳外国産馬の2頭、グラスワンダーとエルコンドルパサー、そして逃げ馬として覚醒して5連勝中だったサイレンススズカの対決。
「伝説のGⅡ」と称され、13万人を呑み込んだ東京競馬場での対決は、サイレンススズカが圧巻の逃げ切り。
負かした2頭のその後の戦績が、このレースの価値を殊更高めた。

そして、2020年。
新たな「世紀の一戦」が、歴史に刻まれることになりそうだ。

惜しむらくは、コロナ禍によって、この「世紀の一戦」を現地で観戦できる人数に制限があることか。

一昨年、去年と現地に赴いたが、今年は入場制限がなければ、どれほどの入場者数があったのだろう。

I was there. ~第38回ジャパンカップ 観戦記

変化を、怖れることなかれ。 ~令和元年のジャパンカップが教えてくれたもの

いや、逆に、コロナ禍だからこそ、なのだろう。
香港をはじめ海外レースへ出走のハードルが高くなったことも、メンバーが揃った一因ではあろう。 

出走を決めてくださった関係者の方々には、感謝したい。

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その瞬間まで。
ドキドキ、しよう。

待ちきれないこの時間が、ずっと続けばいいのに、とも思っている。

どうか、無事にゲート・インまで。
そしてすべてのレースと同じように。
全馬・全頭が無事に完走することを、願っている。

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アーモンドアイが勝った2018年のジャパンカップ、現地にて。