「宣伝は何のために打つのか?」
と問われれば、新規顧客の開拓か、もしくは既存顧客をつなぎとめるためか、いずれかの目的になってくるのだろうと思う。
イメージアップを図ったり、ブランド化ををするのも、そのいずれかの目的のためだ。
こと中央競馬、JRAのTV CMにおいては、前者の新規顧客の開拓に主眼を置いたCMが多い。
しかし、2011年に放映されたシリーズは、そんな例年の傾向から外れ、既存顧客にフルスイングした異色の内容だった。
それだけに、いまも史上最高のTV CMだと思っている。
T・レックスの名曲、「20th Century Boy」の印象的なギター音に乗せて、サラブレッドのシルエットがモノトーンで映し出される。
年号、レース名、優駿の名前、そして見事なキャッチコピー。
そして最後に、実際のそのレースの映像を、少し。
皐月賞からはじまり、有馬記念までの9レースの前に放映され、いずれも1990年代のそのレースの勝ち馬をモチーフにした演出だった。
そのレースを知らない新規顧客からすると、見たところで「はぁ???」となるような、シンプルかつ渋い演出なのだが、当時のレースを知っているファンからすると、このシリーズは鳥肌ものの出来だった。
私も多感な思春期を過ごした1990年代の名馬たちには、やはり思い入れが深く、どのCMもうるっときてしまう。
そして何より、これはJRAに限った話ではないが、歴史と伝統といった積み重ねられたものは、何物にも代えがたい資産であり、宝物である。
その資産を十二分に使ったこのCMは、史上最高のCMの一つだと思うのだ。
もちろん、新規顧客を獲得するためのCMも必要だと思うが、たまにこんな既存顧客に向けたフルスイングが見られると、とてもうれしいものだ。
10年経った今でも、時折見返してしまう。
前掲の動画の後半、秋のGⅠシリーズのCMの流れが、最高だ。
94年 菊花賞
ナリタブライアン、7馬身差の衝撃。
「群れに答えなどない」
からの、
99年 天皇賞・秋
スペシャルウィーク、逆襲のラン。
「本当の敵は、諦めだ」
からの、
98年 ジャパンカップ
エルコンドルパサー、激戦のライバルたち。
「僕らは、ひとりでは強くなれない」
そしてとどめの、
90年 有馬記念
オグリキャップ復活、ラストラン。
「神はいる。そう思った」
である。
コピーライターは、天才だと思う。
宣伝、というものは「知らない人に届けるため」のものであるが、時に「知っている人に深く届ける」ためのものでもある。
そう、考えさせられる。
何はともあれ、史上最高のCMシリーズの一つだと思っている。