今年9月に亡くなられたエリザベス女王を悼むように、涙雨の日曜日だった。
1975年に女王が来日されたことを記念して、「ビクトリアカップ」からその名に変わった、エリザベス女王杯。
自ら何頭も競走馬を所有し、競馬を愛していたエリザベス女王。
その名を冠したレースが、これからも続いていく。
冬の気配と、深まりゆく秋のセンチメンタリズムのなかで、在りし日の女王を思い出すレースになるのだろうか。
良馬場発表で始まった阪神競馬場は、時間の経過とともに稍重、そして重へと馬場を悪化させていく。
1.百花繚乱、出走馬18頭
1番人気に支持されたのは、デアリングタクト。
一昨年の無敗三冠牝馬は、その三冠を達成した秋華賞以来、勝利から遠ざかっている。
4歳春に発症した繋靭帯炎から、今年5月に1年ぶりに復帰したものの、3戦して3着1回、着外2回と、いまだ雌伏の時間が続く。
「今度こそは」とファンは1番人気に支持したものの、4.3倍というオッズには揺れる心理が表れているようだった。
続く2番人気には、今年の秋華賞馬、スタニングローズ。
坂井瑠星騎手とともに、この秋の勢いそのままに古馬をも呑み込むか。
そして同じく3歳のナミュールが3番人気。
世代屈指の破壊力を誇る末脚を、この大舞台で炸裂させるか。
さらには前走のGⅡオールカマーで重賞初制覇を成し遂げ勢いに乗る、超良血・ジェラルディーナにはクリスチャン・デムーロ騎手。
牡馬相手のGⅡ2勝の実績を誇るウインマリリンにはダミアン・レーン騎手と、短期免許で来日中の名手たちも虎視眈々。
感染症禍で見られなくなっていた、秋のGⅠを彩る世界の名手たちの姿が、戻ってきた。
そして11年ぶりの海外からの参戦となったアイルランドのマジカルラグーン、あるいは昨年の女王・アカイイトなど18頭が集った、秋の仁川の舞踏会。
2.レース概況
雨は降り止んだものの、馬場は重馬場のままでのスタート。
内から7,8頭分のコースは、馬場が荒れているように見え、外のコースと色目が違って見えた。
ゲート入りに若干時間がかかり、奇数番の馬たちが待たされたものの、揃った綺麗なスタート。
1コーナーまでの長い直線を使ってのポジション争い。
2番枠を引き、逃げ宣言をしていたローザノワールが、押して先頭へ。
11年ぶりの海外馬の出走となったマジカルラグーンが、その後ろの番手のポジション。
スタニングローズも、その後ろの先行集団をキープ。
ウインマリリンが前目の6、7番手あたりを取り、デアリングタクトはその後ろのインコース、さらにそれを見るようにナミュール。
ジェラルディーナは後方5,6番手あたりで、前にテルツェットを置いて進める態勢。
向こう正面に入るが、先頭のローザノワールはそれほどペースを上げず、2番手以下が密集する態勢。
デアリングタクトは、松山弘平騎手が若干手綱を引き気味で、走りづらそうにインコースを追走。
外からもマークされており、厳しい道中に見えた。
3コーナーに差し掛かり、2番手のマジカルラグーンに鞭が入り、ウインキートス、スタニングローズも手応えが怪しくなる。
その影響で、インコースにいたデアリングタクトを含めた後続馬が影響を受ける形。
ローザノワールが先頭のまま直線へ。
馬場の中ほどから追いすがるウインマリリン、そして外から追い込んでくるピンクの帽子、ジェラルディーナ。
さらにその外から差しにかかるライラック。
残り100mを切ってもウインマリリンは粘るも、ジェラルディーナが外から豪快に差し切ってゴールに飛び込んだ。
際どかった2着争いは、なんとウインマリリンとライラックが同着。
GⅠ史上初の、2着同着という珍しい決着となった。
3.レース後の戦評
1着、ジェラルディーナ。
母はGⅠ7勝のジェンティルドンナという超良血が、この大舞台でその血の偉大さを証明した。
父・モーリスにとっては、昨年のスプリンターズステークスを制したピクシーナイトに続いて、2頭目となる産駒のJRA・GⅠ勝利となった。
曾祖父・グラスワンダーからの4代続けてのGⅠ制覇は、まさに偉業の一言。
外枠の馬が上位を独占したように、道悪となった馬場の内外のバイアスもあったと思われるが、それにしても、クリスチャン・デムーロ騎手の手腕の見事さよ。
前走・オールカマーで本格化の兆しを見せていた同馬だったが、前目の競馬だった前走から一転、後方外目追走からの差し切り勝ち。
初騎乗で、あの外目のポジションで折り合わせることができる手腕は、見事の一言。
これでクリスチャン・デムーロ騎手はJRA・GⅠ4勝目。
名手にまた一つの勲章が加わった。
2着同着、ウインマリリン。
牡馬混合重賞2勝の力を見せての2着同着。
先行勢で唯一掲示板を確保したのは、地力と適性の高さのなせる業か。
道悪という悪条件のなか、こちらもレーン騎手の手綱さばきが光った。
2着同着、ライラック。
こちらはミルコ・デムーロ騎手の「決め打ち」が嵌った形での2着。
肚をくくっての後方待機から、馬場の良い外側のコースを通って差しての2着同着。
輸送競馬が続きながらも、きっちりとコンディションを整え、そしてGⅠの舞台で結果を出す。
陣営の尽力も見事な2着同着だった。
デアリングタクトは、4番枠が逆に仇となり、ずっと外から被せられて馬場の悪いインコースを走らされる厳しい道中。
展開も向かない中での6着は、やむなしといったとことだろうか。
ファンが復活を待ち望む三冠牝馬だが、この後のレース選択に注目したい。
スタニングローズは、14着と大敗。
適性と地力を問うレース展開になったが、それに適応できなかったように見える。
この馬の良さであるレースセンスや操縦性の高さが活きる展開のレースで、もう一度見直したい。
涙雨の馬場、名手が輝かせた天賦の才。
2022年、エリザベス女王杯。ジェラルディーナが制す。
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