1.レース・出走馬概要
春の仁川を彩る、大阪杯。
阪神芝2000mを舞台に、古馬中距離の有力馬が集う。
昨年春の牝馬クラシック二冠馬・スターズオンアース(牝4、美浦・高柳瑞樹厩舎)。
鋭い決め手を武器に桜花賞、オークスを制したが、骨折明けの秋華賞は後手を踏んでの3着と牝馬三冠は成らなかった。その秋華賞以来5カ月ぶりの出走、かつ初めての古馬の一線級との対戦となるが、天才少女は仁川でもその輝きを見せるか。鞍上は前走に続いてクリストフ・ルメール騎手。
昨秋に素質が完全に開花した、ジェラルディーナ(牝5、栗東・斉藤崇史厩舎)。
オールカマーからエリザベス女王杯を連勝、さらに有馬記念では直線末脚を伸ばしての3着と、能力の高さを見せつけた。これまでの6勝が非根幹距離なのは気になるところだが、GⅠ制覇を飾った仁川で、再度戴冠を成し遂げるか。鞍上は前走のクリスチャン・デムーロ騎手から、気鋭の岩田望来騎手へ乗り替わりで初めての騎乗。
昨年の忘れ物を取りにきた、ジャックドール(牡5、栗東・藤岡健一厩舎)。
6連勝で望んだ昨年の大阪杯では、新たな逃げ馬のスター誕生が期待されたが、2番人気で5着と惜敗。その後GⅡ札幌記念で強いメンバーを相手に逃げ切った。前走・GⅠ香港Cから引き続いて騎乗の武豊騎手とともに、悲願のGⅠタイトルを勝ちとれるか。
昨年の勝ち馬・ポタジェ(牡6・栗東・友道康夫厩舎)だが、その後は掲示板を外す走りが続く。今年も好調を維持する坂井瑠星騎手に替わり、意地を見せるか。
8か月ぶりの前走・GⅡ中山記念で、強い競馬を見せたヒシグアス(牡6・美浦・堀宣行)。堅実無比に走りながらも、GⅠでは「負けて強し」の内容が続いているが、ここで勝ち切ることができるか。鞍上は前走に続いて松山弘平騎手。
ドバイワールドカップを制した川田将雅騎手と挑む、ヴェルトライゼンデ(牡6・栗東・池江泰寿)。早くから素質を見せるも、度重なる怪我に休養を余儀なくされていたが、昨年GⅢ鳴尾記念で重賞初制覇。秋にはジャパンカップで3着、そして年明けのGⅡ日経新春杯で勝利と、充実期に入った。その勢いのまま、ここを制するか。
さらには、一昨年のホープフルS馬・キラーアビリティ、GⅡアメリカジョッキークラブC勝ちから挑むノースブリッジ、巻き返しを図るダノンザキッドなど、18頭の精鋭が揃った春の仁川。
開花した桜が見守る中、その走りを競う。
2.レース概要
ゲートが開き、1コーナーまでの直線を使っての先行争い。
絶好のスタートを切ったのは、武豊騎手のジャックドール。
外から押して主張したのが16番枠のノースザワールド、ゴール板前あたりでジャックドールと並ぶ。
しかしジャックドールが内枠を利してじわりと先手を奪い、1コーナーに入っていく。
番手にノースザワールド、内にマテンロウレオ、そしてダノンザキッドも前目につける。
その後ろにポタジェ、ヒシイグアスが控え、中団にヴェルトライゼンデ、そしてスターズオンアースとジェラルディーナの牝馬2頭は馬群の後方からの競馬からとなった。
2コーナーから向こう正面へ、ジャックドールは単騎の逃げになり、前半5ハロンを58秒9のラップを刻んでいく。
3コーナーに差し掛かり、馬群が縮まっていき、後方のスターズオンアースも徐々にポジションを上げていく。
ジャックドールが先頭で直線へ、その外からダノンザキッドが襲い掛かる。
その内からマテンロウレオが割って伸びんとする。
ダノンザキッドが伸びかけるも、ジャックドールは内ラチ沿いで粘る。
残り100m近くになり、ようやく外から伸びてきた緑の帽子、スターズオンアース。
残り50m、ダノンザキッドをかわして、ジャックドールに迫ったところがゴール板だった。
際どい勝負になったが、わずかにハナ差、ジャックドールが残していた。
勝ちタイムは、1分57秒4の好時計。
ジャックドールが、悲願のGⅠ制覇を成し遂げた。
3.各馬戦評
1着、ジャックドール。
昨年の忘れ物を取り戻すような、見事な復活劇。
昨年12月の香港Cからの直行で、悲願のGⅠ制覇の大仕事を成し遂げた。
GⅠ級とされながらも、なかなか大舞台での勝利が遠かったが、ここで金星を挙げた。
そして、鞍上の武豊騎手は、これでJRA・GⅠ最年長勝利騎手の記録を更新した。
従前の記録は岡部幸雄氏の記録だったが、それを塗り替え、さらにはJRA・GⅠを通算80勝の大台にも乗せた。
まさに前人未到。この大阪杯はGⅡ時代も含めて8勝目と、他の追随を許さない実績は、驚異の一言。
その逃げの技は、重要無形文化財に指定すべきと思わせるほどに、美しいものだった。
中長距離の逃げは「急ー緩ー急」が原則だが、武豊騎手の「緩」は単純に緩めない。
中間で11秒半ばのラップを連発し、後続に楽をさせず、かつジャックドールの脚が最後まで持つギリギリを狙う。
そして、最後の最後でハナ差だけ残すという、まさに芸術。
レジェンドの手綱捌きが、ひときわ輝いて見えた大阪杯となった。
2着、スターズオンアース。
道中後方から、直線強襲してハナ差の2着は、負けて強しの内容。
ルメール騎手がレース後に「秋華賞と同じになってしまった」と語っていたが、まさにその通りだったのだろう。
内回りコース、奇数番のアヤともいえるが、それでも勝ち馬に迫ったのは見事。
また、古馬との初対戦でも、その能力が一線級にあることを示したことは、今後の好材料か。
この馬の末脚を存分に活かせる広いコースでの走りを、楽しみにしたい。
3着、ダノンザキッド。
中山記念11着から巻き返しての馬券内、素晴らしい走りだった。
惜しむらくは、スタート後にノースザワールドが主張したことで、取ったポジションの一列前に壁ができてしまったことか。
4コーナーの手応えが抜群だっただけに、それがなければと思わせるレースだった。
前走は崩れたものの、高いレベルで安定した走りを見せてくれる同馬、大きなタイトルが獲れることを楽しみにしたい。
無形文化財の逃げ、前人未到の偉業を成す。
2023年大阪杯、ジャックドールと武豊騎手が制した。
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