大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

重要無形文化財の逃げ、前人未到の偉業を成す。 ~2023年 大阪杯 回顧

1.レース・出走馬概要

春の仁川を彩る、大阪杯。

阪神芝2000mを舞台に、古馬中距離の有力馬が集う。

 

昨年春の牝馬クラシック二冠馬・スターズオンアース(牝4、美浦・高柳瑞樹厩舎)。

鋭い決め手を武器に桜花賞、オークスを制したが、骨折明けの秋華賞は後手を踏んでの3着と牝馬三冠は成らなかった。その秋華賞以来5カ月ぶりの出走、かつ初めての古馬の一線級との対戦となるが、天才少女は仁川でもその輝きを見せるか。鞍上は前走に続いてクリストフ・ルメール騎手。

 

昨秋に素質が完全に開花した、ジェラルディーナ(牝5、栗東・斉藤崇史厩舎)。

オールカマーからエリザベス女王杯を連勝、さらに有馬記念では直線末脚を伸ばしての3着と、能力の高さを見せつけた。これまでの6勝が非根幹距離なのは気になるところだが、GⅠ制覇を飾った仁川で、再度戴冠を成し遂げるか。鞍上は前走のクリスチャン・デムーロ騎手から、気鋭の岩田望来騎手へ乗り替わりで初めての騎乗。

 

昨年の忘れ物を取りにきた、ジャックドール(牡5、栗東・藤岡健一厩舎)。

6連勝で望んだ昨年の大阪杯では、新たな逃げ馬のスター誕生が期待されたが、2番人気で5着と惜敗。その後GⅡ札幌記念で強いメンバーを相手に逃げ切った。前走・GⅠ香港Cから引き続いて騎乗の武豊騎手とともに、悲願のGⅠタイトルを勝ちとれるか。

 

昨年の勝ち馬・ポタジェ(牡6・栗東・友道康夫厩舎)だが、その後は掲示板を外す走りが続く。今年も好調を維持する坂井瑠星騎手に替わり、意地を見せるか。

 

8か月ぶりの前走・GⅡ中山記念で、強い競馬を見せたヒシグアス(牡6・美浦・堀宣行)。堅実無比に走りながらも、GⅠでは「負けて強し」の内容が続いているが、ここで勝ち切ることができるか。鞍上は前走に続いて松山弘平騎手。

 

ドバイワールドカップを制した川田将雅騎手と挑む、ヴェルトライゼンデ(牡6・栗東・池江泰寿)。早くから素質を見せるも、度重なる怪我に休養を余儀なくされていたが、昨年GⅢ鳴尾記念で重賞初制覇。秋にはジャパンカップで3着、そして年明けのGⅡ日経新春杯で勝利と、充実期に入った。その勢いのまま、ここを制するか。

 

さらには、一昨年のホープフルS馬・キラーアビリティ、GⅡアメリカジョッキークラブC勝ちから挑むノースブリッジ、巻き返しを図るダノンザキッドなど、18頭の精鋭が揃った春の仁川。

開花した桜が見守る中、その走りを競う。

2.レース概要

ゲートが開き、1コーナーまでの直線を使っての先行争い。

絶好のスタートを切ったのは、武豊騎手のジャックドール。

外から押して主張したのが16番枠のノースザワールド、ゴール板前あたりでジャックドールと並ぶ。

しかしジャックドールが内枠を利してじわりと先手を奪い、1コーナーに入っていく。

番手にノースザワールド、内にマテンロウレオ、そしてダノンザキッドも前目につける。

その後ろにポタジェ、ヒシイグアスが控え、中団にヴェルトライゼンデ、そしてスターズオンアースとジェラルディーナの牝馬2頭は馬群の後方からの競馬からとなった。

2コーナーから向こう正面へ、ジャックドールは単騎の逃げになり、前半5ハロンを58秒9のラップを刻んでいく。

3コーナーに差し掛かり、馬群が縮まっていき、後方のスターズオンアースも徐々にポジションを上げていく。

ジャックドールが先頭で直線へ、その外からダノンザキッドが襲い掛かる。

その内からマテンロウレオが割って伸びんとする。

ダノンザキッドが伸びかけるも、ジャックドールは内ラチ沿いで粘る。

残り100m近くになり、ようやく外から伸びてきた緑の帽子、スターズオンアース。

残り50m、ダノンザキッドをかわして、ジャックドールに迫ったところがゴール板だった。

際どい勝負になったが、わずかにハナ差、ジャックドールが残していた。

勝ちタイムは、1分57秒4の好時計。

ジャックドールが、悲願のGⅠ制覇を成し遂げた。

3.各馬戦評

1着、ジャックドール。

昨年の忘れ物を取り戻すような、見事な復活劇。

昨年12月の香港Cからの直行で、悲願のGⅠ制覇の大仕事を成し遂げた。

GⅠ級とされながらも、なかなか大舞台での勝利が遠かったが、ここで金星を挙げた。

そして、鞍上の武豊騎手は、これでJRA・GⅠ最年長勝利騎手の記録を更新した。

従前の記録は岡部幸雄氏の記録だったが、それを塗り替え、さらにはJRA・GⅠを通算80勝の大台にも乗せた。

まさに前人未到。この大阪杯はGⅡ時代も含めて8勝目と、他の追随を許さない実績は、驚異の一言。

その逃げの技は、重要無形文化財に指定すべきと思わせるほどに、美しいものだった。

中長距離の逃げは「急ー緩ー急」が原則だが、武豊騎手の「緩」は単純に緩めない。

中間で11秒半ばのラップを連発し、後続に楽をさせず、かつジャックドールの脚が最後まで持つギリギリを狙う。

そして、最後の最後でハナ差だけ残すという、まさに芸術。

レジェンドの手綱捌きが、ひときわ輝いて見えた大阪杯となった。

 

2着、スターズオンアース。

道中後方から、直線強襲してハナ差の2着は、負けて強しの内容。

ルメール騎手がレース後に「秋華賞と同じになってしまった」と語っていたが、まさにその通りだったのだろう。

内回りコース、奇数番のアヤともいえるが、それでも勝ち馬に迫ったのは見事。

また、古馬との初対戦でも、その能力が一線級にあることを示したことは、今後の好材料か。

この馬の末脚を存分に活かせる広いコースでの走りを、楽しみにしたい。

 

3着、ダノンザキッド。

中山記念11着から巻き返しての馬券内、素晴らしい走りだった。

惜しむらくは、スタート後にノースザワールドが主張したことで、取ったポジションの一列前に壁ができてしまったことか。

4コーナーの手応えが抜群だっただけに、それがなければと思わせるレースだった。

前走は崩れたものの、高いレベルで安定した走りを見せてくれる同馬、大きなタイトルが獲れることを楽しみにしたい。

 


 

無形文化財の逃げ、前人未到の偉業を成す。

2023年大阪杯、ジャックドールと武豊騎手が制した。

 

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