大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

力勝負、香港に続いて。 ~2021年 高松宮記念 回顧

昼前から降り出した雨を、眺めていた。

少し季節を巻き戻したかのような、肌寒い気温。
風も、少し出ているようだ。

毎年、桜が満開になるころに、花散らしの冷たい雨が降るような気がするのは、人間の印象記憶によるものだろうか。
そうでない年もあるのだろうが、「せっかく満開になったのに」という話を、例年繰り返しているような気もする。

それだけ、ものごとの盛り、ピーク、最高潮というのは、儚いものなのかもしれない。

桜の具合とともに、高松宮記念が行われる中京競馬場の馬場を想った。

案の定、時間を経るごとに馬場は水分を含み、荒れていく。
良馬場発表で始まった開催は、高松宮記念の発走時には重馬場まで悪化していた。

この重馬場が、各馬にどのように影響するのか。

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ゲートが開く。

絶好の発馬を決めたのは、前年の覇者、モズスーパーフレアと松若風馬騎手。
絶好の4番枠から、無理せずハナを奪う。
内から4番人気のライトオンキューと横山典弘騎手、レッドアンシェルが詰め、前年のNHKマイルカップ覇者・ラウダシオンとミルコ・デムーロ騎手あたりも先手を主張する。

その外から被せていったのが、1番人気に支持されたレシステンシアと浜中俊騎手。
前走、GⅢ・阪急杯を逃げ切りで制していたが、やはりスプリント戦では番手をうかがう競馬か。

中団前目に、一昨年の春秋マイルGⅠ王者のインディチャンプと福永祐一騎手。
前年はグランアレグリアに後塵を拝した形だったが、今回は生涯初のスプリント戦へ挑戦してきた。

そのインディチャンプを見る形で、川田将雅騎手のダノンスマッシュ。
昨年末の香港スプリントを制してから、約3か月ぶりのぶっつけで、ここに挑んできた。

人気の各馬が、スムーズにポジションを取ったことで、レースは淡々と流れていく。

前半の3ハロンは33秒9。
快速・モズスーパーフレアからすると、重馬場を考慮しても、ある程度足を溜めながら逃げられているように見えた。

隊列そのままに、4コーナーを回って直線。

モズスーパーフレアが内ラチ沿いで粘る。
2番手との差は2馬身あまり、まだ余力は十分だ。

セイウンコウセイ、ダノンファンタジー、ラウダシオン。
番手集団は横いっぱいに広がって追う。

インディチャンプがモズスーパーフレアに馬体を併せんと追う。
馬場のど真ん中を通って、ダノンスマッシュも伸びてくる。
その外から、レシステンシアが襲い掛かる。
人気を集めた実力馬たちによる、最後の死力を尽くした追い比べ。

残り100mを切って、インディチャンプが先頭に立つ。
差したか。

しかし、外から猛然と伸びてくるダノンスマッシュとレシステンシア。
残り50mを切っての、逆転。

クビ差だけ、ダノンスマッシュが前に出ていた地点が、ゴール板だった。
2着のレシステンシアから、さらにクビ差でインディチャンプ。

花散らしの雨の下、波乱の決着ではなく、人気馬がその実力を遺憾なく発揮した、力勝負。
何度も見惚れる、直線の攻防だった。

勝ったダノンスマッシュは、この高松宮記念を父・ロードカナロアと父子制覇。
香港スプリントでも同じく父子制覇を成し遂げており、偉大なる父の足跡を追っている。

ケイアイファーム生産、安田隆行調教師というのも、父と同じ。
繋がれる血が、人の縁を紡ぐ。

2歳戦から一線級で走るなど、早くからその才能を見せていたが、なかなかビッグタイトルに手が届かない時期も長かった。
それが昨年末の香港から、GⅠを連勝。

鞍上の川田騎手も、無理にポジションを取りに行くことをせず、中団で泰然と構えていた。
直線ではある程度馬群を捌ける自信があったのだろう。
馬自身の力もさることながら、見事な騎乗だった。

勝ち鞍はすべて1,400m以下という、生粋のスプリンター。
明け6歳にして衰える気配もないが、さりとて国内のスプリント戦の大舞台は秋まで無いが、その矛先をどこに向けるのだろう。

 

2着にはレシステンシア。

2歳GⅠを制した天才少女は、古馬になってもその輝きを失わず。
負傷の武豊騎手の代打となった浜中騎手にとっては、結果が必要なレースだったとは思うが、それでも不利な16番枠、初めての距離経験という要素がありながら、素晴らしい騎乗だったように思う。

勝ち馬の脚に屈したのは、枠の差と、スペシャリストとの差だっただろうか。
この後の路線は距離延長となる可能性が高く、難しい面もあろうが、浜中騎手ともども楽しみが増えたと言えるだろう。

 

3着に、インディチャンプと福永騎手。

初めてのスプリント戦への出走ながら、一昨年のマイル王者の意地は見せた形か。
スプリント戦のテンの速さの中、スタートを決めて先行集団の後ろ、ちょうど中団のあたりの無理のない位置取り。
道中はじっと我慢しながら、直線は内を抜け出して、あわやの見せ場を作っての3着。
もともとレースセンスの高い馬ながら、福永騎手のうまい乗り回しが奏功していた。

勝ち切れなかったものの、十分な力は見せた。
今後は走り慣れたマイル路線に戻るのだろうか。
また、その輝きが見られることを期待したい。

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69秒2の、紛れのない力勝負。
それを可能にしたのは、例年の内枠有利の傾向を消した、花散らしの雨と、そして淀みのないペースを作ったモズスーパーフレアの逃げだったのかもしれない。

やはり逃げ馬がある程度のペースをつくると、レースが締まる。

ダノンスマッシュ、香港に続いて力勝負を制す。

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