秋のGⅠ戦線の開幕を告げる、スプリンターズステークス。
16頭の韋駄天自慢が、秋の中山に集う。
スタンドを埋める、大観衆。
2020年の感染症禍以来、無観客開催、あるいは少人数での開催が続いていたが、ようやくGⅠに大観衆が戻ってきた。
やはりGⅠには、この熱気と高揚感が、よく似合う。
1番人気に支持されたのは、前哨戦のGⅡセントウルステークスをレコードで制したメイケイエールと池添謙一騎手。
才能の輝きと、気性難。
相反する二つのはざまで揺れてきたが、池添騎手とともに歩みを進めてたどりついた、GⅠの大舞台での1番人気。
続く2番人気には、桜花賞3着からスプリント路線に舵を切り、古馬に混じって輝きを見せてきたナムラクレア。
浜中俊騎手とともに、短距離戦線を一気に統一せんとする。
そして、昨年の3歳マイル王・シュネルマイスターが電撃参戦。
マイルを主戦場としてきたが、ここにきて初のスプリント戦への挑戦。
前走のクリストフ・ルメール騎手が凱旋門賞騎乗のため、今回は横山武史騎手とともに二つ目のGⅠタイトルを狙う。
さらには、夏の小倉のCBC賞をレコードで逃げ切ったテイエムスパーダと国分恭介騎手、スプリントGⅠ春秋連覇を狙うナランフレグと丸田恭介騎手が続く。
いずれも快速自慢の16頭が揃い、秋のGⅠシリーズは華やかに開幕する。
息をのむ電撃戦のスタート、一つのアヤになったのは、逃げると思われていた一角のテイエムスパーダの出遅れだった。
最内枠の逃げ馬は、難しい。
ハナを取るには、行き切るしかないからだ。
3歳牝馬、関西からの輸送、後入れの奇数枠と悪条件が重なったこともあったか、痛恨の出遅れ。
一方で好発を決めたのは、好枠の4番ダイアトニック、8番ファストフォース、そして2番枠からジャンダルムと萩野極騎手。
出遅れたテイエムスパーダだったが、国分騎手が押して、出遅れを取り戻しにかかる。
13番枠から出たメイケイエールは、4、5番手あたりの先団外目を追走、ナムラクレアはそれを見るようにちょうど中団あたりのポジションを確保。
シュネルマイスターは後方5番手あたり、ナランフレグはさらにその後ろで、これまで同様に末脚にかける態勢。
テイエムスパーダがハナを奪い返したものの、前半3ハロンは32秒7と、このクラスと今開催の馬場からすると若干落ち着いたペースで流れる。
迎えた3コーナーからの勝負どころ、メイケイエールは絶好の位置に見えたが、手応えはよさそうには見えない。
テイエムスパーダが先頭のまま直線を向く。
その外からジャンダルム、さらに一つ外からはダイアトニックがせまる。
ジャンダルムがかわし、先頭。
後ろはナランフレグ、エイティーンガールらが一団となって混戦。
メイケイエールは伸びそうにない。
中山の急坂を力強く登り切るジャンダルム。
2番手集団から抜け出したウインマーベル、そして外からナランフレグも脚を伸ばす。
しかし、何とかそれらを振り切って、ジャンダルムが先頭を駆け抜けた。
ジャンダルム1着、勝ち時計1分7秒8。
ウインマーベルがクビ差まで迫ったが惜しくも2着、さらに外から差してきたナランフレグが力を見せての3着。
1着、ジャンダルム。
内枠有利の開催、好枠の利を最大限に活かした騎乗で、後続の追撃をしのぎ切った。
7歳馬が手にした、大きな大きなGⅠのタイトル。
同レースがGⅠとなってから、7歳馬の勝利は初の快挙となった。
「GⅠ第1回」のホープフルステークスで、タイムフライヤーの2着に入ったのが、遠い昔のように思い出される。
3歳時のダービーでの敗戦から、マイル戦、そしてスプリント戦へと活躍の場を移してきたが、重賞3勝目はGⅠのタイトルとなった。
母・ビリーヴは、2002年のスプリンターズステークスを勝っており、母仔同一GⅠ制覇の快挙となった。
あの年は中山競馬場が改修で、新潟での開催だった。
長い直線を抜けだす、名スプリンターの母の記憶を呼び覚ます勝利。
ジャンダルムの同世代には、タワーオブロンドン、ダノンスマッシュ、ミスターメロディ、モズスーパーフレアとスプリントGⅠの勝ち馬が並んでいる中で、価値のある7歳での勝利だった。
そして萩野極騎手は、7年目、そして3度目のGⅠ騎乗で初めての勝利の大仕事を成し遂げた。
重賞勝利も、ジャンダルムとともに勝った、今年のGⅢオーシャンステークスとあわせての2勝目。
ゴール後、マリアズハートに乗る同期の菊沢一樹騎手と、拳を突き合わせていたのが印象的だった。
気鋭の若武者が、ビッグタイトルとともに、さらに飛躍を成し遂げるのだろうか。
今後の手綱さばきに、さらに注目したい。
20年前の記憶を呼び覚ます、7年目の気鋭と枯れぬ7歳。
過去が昇華し、未来が輝く。
2022年スプリンターズステークス、ジャンダルムと萩野極騎手が制す。