香港国際競走。
沙田競馬場を舞台に、4つの国際GⅠが同日に施行される香港の競馬の祭典。
2021年の今年は、日本から過去2番目となる12頭の優駿が、各々の頂点を目指して香港に遠征。さらには川田将雅騎手と福永祐一騎手の両名も、感染症禍の影響が続く中でも、この大舞台の騎乗のために海を渡った。
古くは1995年の香港カップ(当時は国際GⅡ)で日本馬久々の海外重賞制覇を成し遂げたフジヤマケンザンや、引退レースとなった2001年の香港ヴァーズで悲願のGⅠ初勝利を成し遂げたステイゴールドなど、あるいは先日訃報のあった異能の名馬・アグネスデジタルが制した同じ2001年の香港カップなど、印象に残るレースが多い。
まず口火を切った、GⅠ香港ヴァーズ(芝2,400m)。
日本のグローリーヴェイズとジョアン・モレイラ騎手が、いきなり魅せてくれた。
8頭立ての外枠からスタートすると、道中は後方2番手を内から追走。
スローペースに気を揉んだが、3コーナー過ぎから徐々に外目から進出を開始。
直線、先に抜け出した英国のパイルドライヴァーを、素晴らしい伸び脚でかわして、見事に2019年に続いてこのレース2勝目をマークした。
ゴール後、大きなアクションでガッツポーズを重ねるモレイラ騎手、マスクの上からも笑顔がこぼれるようだった。
一方、ステイフーリッシュは地元香港のヴィンセント・ホー騎手が積極的に前目前目で進めたものの、伸び脚を欠き5着。また前年の覇者、モーグルは6着と伸びなかった。
そして、GⅠ香港スプリント(芝1,200m)。
日本からは昨年に続いての連覇を狙ったダノンスマッシュ、春秋スプリントGⅠ連続2着のレシステンシア、そして新スプリント王のピクシーナイトが参戦。
地元香港の「お家芸」ともいえるスプリント戦を舞台に熱戦が期待されたが、4コーナー手前で4頭が多重落馬するアクシデントが発生。
ピクシーナイトと福永騎手が巻き込まれて競走中止、レシステンシアとダノンスマッシュも大きく影響を受けた。
レース自体は前で進めていたオーストラリアのスカイフィールドが押し切って、勝利を挙げた。レシステンシアとクリストフ・スミヨン騎手もそのアクシデントがありながらも猛然と追い込んで2着に連対。
このレースを最後に引退が決まっていた昨年の覇者・ダノンスマッシュは、致命的な不利で競馬にならず、最後方の8着での入線となった。
あまりにショッキングな事故に、書くべき言葉も見当たらないが、いまはただ予後不良となった香港のアメージングスター、ナブーアタックの2頭の冥福を祈りたい。
さらには、GⅠ香港マイル(芝1,600m)。
近年の香港最強マイラーと称され、15連勝中のゴールデンシックスティに、4頭の日本馬が挑む形となった。
果敢に逃げたのは、ダミアン・レーン騎手のサリオス。
一方のゴールデンシックスティは最内1番枠からの発走だったが、後方3番手から追走しながら、徐々に徐々に進出していき、4コーナーではすでに前を射程圏に。
直線、進路が狭くなったかにも見えたが、お構いなしとばかりに突き抜けた。
香港競馬史上最多となる19勝目を、16連勝で飾った。
香港の連勝記録は、サイレントウィットネスの17連勝だという。2005年に来日し、GⅠスプリンターズステークスを制した脚が思い出される名馬の記録まで、「マジック1」となる勝利だった。
逃げたサリオスは粘って3着に入り、初の海外遠征で地力を見せた。
引退レースとなっていたインディチャンプは、福永騎手から乗り替わりとなったクリストフ・スミヨン騎手とともに5着に入線。さらに今年の春、GⅠドバイターフで2着に入っていたヴァンドギャルドは6着、春のGⅠ安田記念を制していたダノンキングリーは、末脚伸びず8着での入線となった。
そして、この日の掉尾を飾るGⅠ香港カップ(芝2,000m)。
川田将雅騎手とラヴズオンリーユーが、引退レースを飾ってくれた。
道中のポジションは4,5番手を追走するも、他馬に囲まれプレッシャーを受けながら、内に押し込まれる厳しい展開。
最後の直線、先に1馬身ほど抜け出したロシアンエンペラーを猛然と追いかけ、さらに最後方から外を追い込んできたヒシイグアスに並ばれるも、最後にもうひと伸びする二の脚を繰り出し、優勝のゴールに飛び込んだ。
11月のブリーダーズカップの際もそうだったが、厳しい状況を跳ね除けるラヴズオンリーユーのタフな精神力、そしてそれを信頼しきっているような川田騎手の騎乗が、印象的だった。
これで、ラブズオンリーユーの2021年は、GⅠクイーンエリザベスⅡ世カップ、GⅠブリダーズカップフィリー&メアターフに続いて、日本馬史上初となる海外GⅠ3勝目の偉業を達成。エルコンドルパサー以来となる、国内GⅠ未勝利での年度代表馬は、あるだろうか。
いずれにせよ、この歴史的な名牝の仔が、またターフを賑わせてくれることを期待したい。
2着に入ったヒシイグアスは、モレイラ騎手が最後方からの切れ味を引き出した形。前走の天皇賞・秋でも、強い競馬で5着に入っていたが、その力を香港の地でも証明した。
父・ハーツクライの産駒は2度覚醒すると言われるが、さらなる進化を期待したい。
国内では逃げて実績を残していたレイパパレは、スミヨン騎手が中団から競馬を進めたが、最後の直線でなだれ込むように6着での入線となった。
12頭の優駿と、二人のジョッキーが日本から挑んだ、2021年香港国際競走。
力を出し切った馬、そうでなかった馬、引退レースを飾った馬…結果は違って出るのは当然だが、昨今の世情のなか、果敢に海を渡った挑戦者たちに最大限の賛辞を送りたい。