大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

吹き荒れた春の嵐、初めての戴冠。 ~2022年 高松宮記念 回顧

2022年3月26日、日本時間の深夜からドバイ・メイダン競馬場で行われた「ドバイワールドカップデー」。

総勢22頭の日本馬が遠征、GⅠドバイシーマクラシックなどを含む5つのレースを制する活躍を見せた(GⅠドバイターフのパンサラッサは1着同着)。

かつてのライブリマウント、あるいはホクトベガなど、単騎で挑んでいた時代から、おおよそ四半世紀。

日本馬がドバイを席巻する姿を見るのは、隔世の感がある。

昨年のアメリカ・ブリーダーズカップデーの快挙もあり、もう日本馬のレベルは世界トップクラスに達しているのではないか。

 

その翌日、日本においては極限のスピードを競う電撃戦、高松宮記念が行われた。

桶狭間古戦場の近く、中京競馬場で行われるこのスプリントGⅠから、春のGⅠシリーズは開幕する。

競走馬の根幹となる能力である「スピード」。

わずか70秒足らずの刹那に、その才を競う。

 

人気を集めたのは、前年の春秋スプリントGⅠで連続2着、そして暮れのGⅠ香港スプリントでも、不利がありながらも2着に入っていた5歳牝馬、レシステンシア。

若き俊英・横山武史騎手と、初の戴冠を狙う。

それに続くのは、前哨戦のGⅢシルクロードステークスで久々の勝利を飾った、「爆弾娘」メイケイエールと池添謙一騎手。

そして差のない3番人気に、一昨年のGⅠ朝日杯フューチュリティステークスを制している、グレナディアガーズと福永祐一騎手。強烈な末脚で、その朝日杯以来の勝利を挙げた、前年暮れのGⅡ阪神カップからの直行で、GⅠ2勝目を狙う。

この3頭が単勝10倍以下の人気となったが、スプリント戦に活路を探すサリオス、一昨年の高松宮記念で1着入選からの降着となったクリノガウディーなどの実績馬も虎視眈々と春のスプリント王を狙う。


 

前日の夜まで降り続いた雨により、馬場状態は「重」の発表。

8レースの4歳上1勝クラスの勝ち時計が1分9秒8と、見た目以上にタフな馬場となっていた。

どうも高松宮記念は、渋った重い馬場で施行される印象がある。

変わりやすい、この時期の気候ゆえに、なのだろうか。

 

春の陽光の下、中京競馬場にGⅠのファンファーレが鳴り響く。

五分の揃ったスタートから、7番枠のレシステンシアが自然に先手を奪いに行く。

前年のモズスーパーフレアのような、確たる逃げ馬がいない中、可能性のある展開だったか。

同枠のジャンダルムも並びかけんとする勢いだったが、萩野極騎手はレシステンシアに行かせる判断。

その外にキルロードと菊沢一樹騎手、内にライトオンキュー、一段後ろからサリオス、ロータスランドといった隊列。

メイケイエールは、その外から池添騎手が何とかなだめながら追走。

福永騎手のグレナディアガーズは、後方から末脚に賭ける態勢。

 

前半の600mを、レシステンシアは33秒4のラップを刻む。

GⅠのスプリント戦としては遅めに見えるが、馬場を考慮すると、やや速めのペースだったか。

レシステンシアが半馬身ほどのリードを保ったまま、4コーナーを回って直線へ。

直線入り口では、レシステンシアの手応えは残っておらず、後続勢の脚色がよさそうだ。

それに追走していたジャンダルムも、脚色は残っていない。

内にもぐりこんだキルロード、そして外からかぶせるロータスランド、そしてその間を割ってくるトゥラヴェスーラ。

さらに内から抜けてきた白い帽子、ナランフレグ。

なんとか粘り込むレシステンシアと、横に広がっての大激戦。

死力を尽くした追い比べは、最後ナランフレグがわずかに前に出ていた。

ナランフレグ1着。

2着にロータスランド、3着にはキルロードが残した。

クビ、ハナ、クビ、クビという2着以下の着差が、その接戦を物語っていた。

人気を集めた3強が圏内を外したことで、3連単は278万円と、春のGⅠ初戦から暴風が吹き荒れた。


 

1着、ナランフレグ。

重賞初勝利が、GⅠ制覇という偉業となった。

オープン、リステッド競争のスプリント戦で磨いた、確実に伸びてくる末脚を、ここで爆発させた。

GⅢシルクロードステークス3着、GⅢオーシャンステークス2着と、馬場も条件も問わない好走に、いよいよ本格化の兆しを見せていたが、この大舞台で戴冠とは恐れ入る。

何よりも、今日は丸田騎手の騎乗が素晴らしかった。

1枠2番からの発走、道中は後方5番手のインコースで脚をため、直線は内が開くのを待って抜け出す。

勝つにはこれしかないと、肚をくくったように感じる騎乗。

35歳、デビュー16年目。

そして12度目の挑戦で、初めてのGⅠ勝利。

何よりも、師匠の宗像調教師の所属馬での勝利が、美しいじゃないか。

レース後のインタビューでは、言葉を詰まらせながら、宗像調教師への謝辞を述べていたのが、印象的だった。

その宗像調教師もまた、初のGⅠタイトル。

多くの重賞を勝ちながら、なぜかGⅠに縁のなかった宗像師だったが、かつての愛弟子届けてくれた勝利の味は、格別だろう。

父・ゴールドアリュールは、数多くのダートGⅠの強豪を送り出してきたが、初めて産駒が芝のGⅠを制したことになる。

そんな「異能」の、ナランフレグ。

人の縁をつなぐ新スプリント王の、これからを楽しみにしたい。

 

2着、ロータスランド。

最後はわずかに勝ち馬の決め手に屈したが、初めてのスプリント戦がGⅠでの2着は立派。

前走・京都牝馬ステークスは番手から前を交わしての勝利だったが、今日は中団で折り合ってしっかりと伸びた。

直線を向いて、狭くなりそうな場面もあったが、岩田望来騎手はあわてずにエスコート。

初のGⅠ制覇に向けて、鬼気迫る勢いで追ったが、クビ差だけ届かなかった。

とはいえ、岩田騎手のGⅠ制覇も、そう遠くはないと思わせてくれる騎乗だった。

マイル→1400ときて、今回のスプリント戦と距離短縮で挑んできたが、今後は再びマイル路線に戻るのだろうか。

今後の走りを、楽しみにしたい。

 

3着、キルロード。

17番人気での激走、大荒れの使者となった。

好発から押して主張するも、内の青枠2頭が行くと見ると、すぐに無理せず番手におさめ、自然な形で追走。

展開によっては、ハナを切るプランも、菊沢騎手の頭にはあったのだろうか。

4コーナーから直線もスムーズに、正攻法の競馬。

菊沢騎手とのコンビでは、1年半前の福島・みちのくステークスを人気薄で勝っており、それ以来の騎乗。

中京・芝1200m・道悪で勝利の実績はあったが、それでも重賞実績なし、前走休み明けで6着と、人気薄になるのもうなづける。

しかし、そういった先入観なしに、菊沢騎手は同馬の力を信じていたのだろう。

素晴らしい走りだった。


 

春のGⅠ戦線の開幕を告げる、高松宮記念。

渋った馬場を、内から力強く差し切った、ナランフレグ。

丸田騎手の破顔とともに、記憶される勝利。

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