大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

白き桜、奇跡の純白。 ~2021年 桜花賞 回顧

多くの日本人が心を奪われる桜というのは、まことに不思議な花だ。

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その花びらは、近くで見ると純白に近い色をしている。
ほんのわずかに、淡いピンクの色が感じられる程度だ。

それが、たくさんの花が集まり、遠くからそれを眺めると、まるで燃え盛っているようだ。

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それは、諦念の中にある、静かで、確かな情熱のようにも見える。
その見事な「桜色」とでも呼ぶべき色は、人のこころを和ませ、愛で、そして癒してきた。

桜は、ほんとうに不思議な花だ。
近影における純白の美しさ、そして遠視における情熱の静けさ。

その奇跡のような両立が彩る、日本の春というのは、まことに美しい季節だ。

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桜花賞というのは、美しいレースだ。
桜のころ、うら若き3歳の乙女が、仁川のマイルで咲き誇る。

2021年、第81回・桜花賞。
阪神競馬場の桜は、もう散り際を迎えていたが、桜花賞まで咲いていてくれた桜の下、18頭の優駿がゲートから飛び出す。

絶好の4番枠から、絶好スタートを切った白毛馬・ソダシと吉田隼人騎手。
仁川の桜の下、その奇跡のような白い馬体が映える。
そのまま逃げそうにも見えたが、先頭を6番ストゥーティにスッと譲り、絶好の2,3番手のポジションに収まった。

人気の一角であり、母・アパパネとの桜花賞親子制覇のかかるアカイトリノムスメと横山武史騎手は、そのソダシを前に置いてマークする態勢。
反対に大外18番枠からのサトノレイナスとクリストフ・ルメール騎手は、少し出負け気味だったこともあり、後方から末脚に賭ける。
いつもルメール騎手が取るポジションに、ソダシの吉田騎手がいる。
そんな印象を受けた。

そして、こちらも注目を集めていたメイケイエールと横山典弘騎手は、痛恨の出遅れ。
横山騎手が必死に抑えにかかるも、まったく制御できない状態に。
大外へ斜行しながら、向こう正面で先頭に立ってしまった。

波乱の要素を含んだレース展開だったが、結果としては正攻法で進めたソダシに利することとなった。

直線入り口で一杯になったメイケイエールを、ファインルージュが交わして先頭に立つ。
それを、早めに仕掛けていたソダシが差していく。

後ろから、同じ勝負服のアカイトリノムスメ、さらに大外からサトノレイナスも鬼脚を炸裂させる。

しかし、ソダシだ。
真っ白な馬体を揺らし、サトノレイナスの猛追をクビ差振り切って、桜のゴールを先頭で駆け抜けた。

勝ちタイムはなんと1分31秒1。
従前の阪神の1600mのコースレコード、1分31秒9をコンマ8秒も更新する、猛時計だった。
高速馬場だったとはいえ、洋芝の札幌で2歳レコードを出しているソダシだけに、この時計の勝ちは高い。

仁川の桜の下、白毛馬が史上初めてクラシックの栄誉に輝いた。

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1着、ソダシ。

昨年12月以来の出走だったが、意欲的に中間の追い切りを消化し、かつ十分に抑えの効いた最高の仕上げは、最高のスタートに結実した。
陣営の見事な仕上げと、吉田騎手の落ち着いた手綱捌きが光った。

前走の項でも触れたが、レースセンスの高さが、この馬の最大の強みだろう。
スタートよし、ポジションよし、折り合いよし、持続する末脚よし…すべての項目で、まんべんなく加点していたような印象を受ける。

これで5戦5勝、無敗での桜花賞制覇。
デビューの頃は、その毛色で注目されていたが、もはやその戦績は、歴代の名牝と並ぶものになってきた。

次走は、2冠を目指すことになるのだろうか。
今日のレースぶりでは、距離が伸びても問題ないように見えるが、引き続きその奇跡の純白の走りに注目したい。

 

2着はサトノレイナス。

ルメール騎手がレース後のコメントでウィットも交えて、18番枠について言及していたように、やはり大外枠の不利は厳しかったか。
スタートは出負け気味で、位置取りは後方からながらも、道中落ち着いてからは、もうこれ以上ない完璧な騎乗だったように思う。
昨年12月に続いて、惜敗での2着は、枠が逆であればという想像を掻き立てられるが、それは次走の楽しみにしたい。

今日の末脚を見るかぎり、世代でも上位の脚力を持っていることは疑いようがない。
舞台が東京に変わるのも、プラス材料だろう。
オークスでの、勝ち馬との再戦、そして新興勢力との力比べを期待したい。

 

3着には福永祐一騎手のファインルージュ。

内枠からソダシをマークしながら、直線抜け出しを図った競馬。
勝つとすればこれだろうというレースプランを遂行したが、今日の時点では上位2頭と差があったように見えた。
それでも、この馬も阪神マイルのレコードを更新するタイムで走っているのだから、純粋に力上位は間違いがない。

オークスまで、あと42日。
上位2頭との逆転は、あるのだろうか。
三冠ジョッキー・福永騎手の作戦にも注目してみたい。

 

4着に、アカイトリノムスメ。

こちらも相手はソダシと決めて、後ろからマークする形で進めたが、直線で突き放されてしまった。
上位人気とは初対戦ということもあり、鞍上の横山騎手は、純粋な力勝負に持ち込んだが、力負けという結果となった。
初めての関西遠征、長距離輸送も堪えたのかもしれない。

それでも、父母あわせて12冠の超良血馬だ。
ここからの成長力に期待し、次走を楽しみにしたい。 

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それにしても、1着ソダシ、2着サトノレイナスはいずれも3歳初戦。
そして3着から5着にも、休養明けの馬が入った。

チューリップ賞、フィリーズレビューといったトライアルに出走した馬の中で、最先着は7着のストゥーティという結果。

同じように2歳GⅠ勝利から桜花賞へ直行という挑戦をした、1999年の藤沢和雄厩舎のスティンガーを思い出す。
スティンガーは桜花賞で惨敗であったが、20年度の2019年に藤沢師はグランアレグリアで、雪辱を果たしている。

その快挙から2年後の今年には、もうそれが当たり前になっている。

昨日の非常識は、今日の常識へと。
時代の流れというのは、かくも早いものかと思わされる。

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仁川の葉桜の下、勝者・ソダシの白い馬体にかけられた、桜花賞のピンクのレイが、なんとも美しかった。

白き桜、奇跡の純白。
ソダシ、2021年の桜花賞を制す。