大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

明日へ架ける橋。 ~2021年 香港チャンピオンズデー 回顧

遠く香港は沙田競馬場で行われた、香港チャンピオンズデー。
チェアマンズスプリントプライズ、チャンピオンズマイル、そしてクイーンエリザベスⅡ世カップというGⅠが一日で行われる、春の祭典。
春の短距離・中距離路線の選択肢の一つとして、近年重要性を増してきた。

2021年の今年は、日本から5頭の優駿が参戦した。
折しも、日本では緊急事態宣言の再出により、東京・阪神開催が無観客競馬へ逆戻りとなっていたが、当地においては、上限7000人までの有観客での開催となっていた。
思えば、昨年は感染症禍により、3月下旬のドバイミーティングが直前で中止。
ドバイまで赴きながら、走ることが叶わず、無念の帰国となった優駿たち。

誰が悪いわけでもない。
けれど、そこに至るまでの関係者の尽力を思うと、ただ、感染症が恨めしかった。
それを思うと、こうして無事に海外遠征が行われることに、感謝したい。

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口火を切って発走となった、GⅠチェアマンズスプリントプライズ。

日本馬からは、昨年12月のGⅠ香港スプリントで父子制覇を成し遂げたダノンスマッシュが出走。
鞍上には、「雷神」ことジョアン・モレイラ騎手。

先月にはGⅠ高松宮記念を制し、充実一途で挑んだが、結果は6着に敗れた。
勝ったのは、前年の香港スプリント5着で、2番人気に推されていた地元香港のウェリントン。

ダノンスマッシュはスタートから行き脚がつかず、道中ジリジリと後退していく苦しい競馬。
最後の直線はよく伸びたが、6着までが精いっぱいだった。

鉄砲は良績、叩き2戦目で凡走のパターンが多い同馬だけに、前走・高松宮記念が仕上がりすぎていたのかもしれない。
この後は、どこに照準を合わせるのだろうか。
春のスプリント王の次走に期待したい。

そして、GⅠチャンピオンズマイル。
日本馬からの参戦はなかったが、地元・香港の英雄、ゴールデンシックスティが勝利し、これでなんと14連勝となったそうだ。
直線、最後は外から差してきたモアザンディスから迫られたが、脚色は残っており、頭差の接戦を制した。

鞍上は香港を代表する、ヴィンセント・ホー騎手。
これから、その名を目にすることも多くなっていくのだろうか。

最後の発走となったのが、クイーンエリザベスⅡ世カップ。
出走馬7頭中、4頭が日本馬というメンバー構成となり、デアリングタクト、ラヴズオンリーユー、グローリーヴェイズ、キセキが戴冠を狙った。

先手を取ったのはドイツから参戦のタイムワープ、番手に香港のエグザルタント。
1枠から発走のデアリングタクトと松山弘平騎手は、その後ろの3番手を追走。
その外にラヴズオンリーユー、鞍上は先ほどのチャンピオンズマイルを制したホー騎手。
やや出遅れたグローリーヴェイズ、キセキはやや後方からの競馬。

淡々とした流れから、前半1000mを過ぎたあたりから徐々にペースアップしていき、直線を迎える。
エグザルタントを交わして、先頭に立とうとするデアリングタクト。
それを、外に持ち出したラヴズオンリーユーが強襲。
残り200mあたりの地点で交わして先頭に立つと、大外から追い上げたグローリヴェイズ、キセキの追撃も封じて、海外GⅠ初制覇となった。

日本馬による同レースの勝利は、2019年ウインブライト以来となり、史上5頭目の快挙となった。
さらに2着から4着までを日本馬が独占し、その偉業に華を添えた形となった。

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1着、ラヴズオンリーユー。

2月のGⅡ京都記念でオークス以来の勝利を挙げ、前走のドバイシーマクラシックでは3着に入っていたが、この春の香港でもその強さを見せつけた。
父・ディープインパクト、母父・Storm Catという黄金配合は、ともすると早熟の気が見え隠れするが、同馬の確かな成長力により、その血統の奥深さを見せてくれた。
2019年のオークス以来、勝ち切れない停滞期があったものの、ここにきて充実の一途。

何より、ドバイからの転戦で結果を出すのは、偉業の一言に尽きる。
精神力の充実と、陣営の調整の賜物だろう。

2019年の牝馬クラシック世代は、桜花賞:グランアレグリア、オークス:ラヴズオンリーユー、秋華賞:クロノジェネシスと、昨今のGⅠ戦線の主役となっている面々である。
まさに、「牝馬の時代」の中心となっている優駿たち。

そんなラヴズオンリーユーの次走は、宝塚記念だろうか。
クロノジェネシスとの再戦が実現すれば、盛り上がるだろう。

それもさることながら、父、母ともに世界的な良血である本馬には、選良のなかの選良たるその血を継ぐ馬たちのことを、考えてしまう。
どうあれ、今後も無事に。

 

2着に、グローリヴェイズ。

一昨年の香港ヴァーズを勝っており、コース適性があることは確かだろう。
やや出遅れながらも、後方から落ち着いて追走し、確かな末脚を伸ばした。
勝手知ったる、地元のティータン騎手のエスコートにも恵まれたかもしれないが、それを差し引いても、やはり地力上位だった。
2020年、三冠馬三頭が激突したあのジャパンカップで5着に入ったのは、やはり伊達ではない。

 

3着、デアリングタクト。

1番人気に支持されていたが、勝ち切れずの3着。
小回り2000mの最内枠、難しい枠順の中で松山騎手は最高の騎乗をしたように思われた。
しかし、直線伸びを欠いたように、どこかコーナーリングが忙しいコースは難しいのかもしれない。
次走はいったん立て直してからになるだろうか。

感染症禍の2020年を盛り上げてくれた無敗の牝馬三冠馬、引き続き応援したい。

 

4着にキセキ。

父・ルーラーシップとの父子制覇がかかったレース、直線後方からよく脚を伸ばして4着を確保。
テン乗りとなったスコフィールド騎手は、追い込みに賭けた前走を参考にしたのか、道中控えて末脚に賭ける形を取り、よく伸びてきた。
明け7歳、海を越えて挑戦を続ける歴戦の勇者には、敬意を表したい。

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1着、2着となったラヴズオンリーユー、グローリーヴェイズ。
かの2頭は、冒頭に書いた昨年のドバイミーティングに出走予定だった。
現地に着いてから中止の報が入り、走ることすら叶わず帰国の途についた2頭。
その2頭が、1年越しに栄光の春を迎えたのが、嬉しかった。

成功の陰には、無数の徒労や失敗がある。
あくなき挑戦をやめなかったがゆえに、今日の栄光がある。

今日の失敗は、明日へ架ける橋。

挑戦を続ける陣営に、最大限の賛辞を贈りたい。

ラヴズオンリーユー、
クイーンエリザベスⅡ世カップを制す。

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