1.「世界に通用する強い馬づくり」から40余年
「世界に通用する強い馬づくり」を掲げ、1981年に国際招待競走として創設されたジャパンカップ。
今年で42回目を迎える。
その数字は奇しくも私の齢と同じであり、毎年それを見ると感慨深くなる。
創設当初は外国馬が日本勢を圧倒していたものの、1990年代からそれが逆転。
逆に日本勢が良績を残すようになり、外国馬の勝利は2005年のアルカセットまで遡る。
今年のトピックスとしては、東京競馬場内に国際厩舎が完成したことだろうか。
これにより空港から直接競馬場に移動することが可能になり、日本への参戦の障壁が下がったとされる。
そんな今年の外国馬の出走は、4頭。
出走を検討していた今年の凱旋門賞馬・アルピニスタは、残念ながら故障により引退となり来日は叶わなかったものの、4頭の強豪馬が来日した。
2.出走馬概要
その外国馬の大将格は、フランスの3歳馬、オネスト。
今年のGⅠパリ大賞を制し、9月のGⅠアイリッシュチャンピオンステークスでも2着と好走。
凱旋門賞は道悪もありアルピニスタの10着と崩れたが、このジャパンカップに焦点を定めてきた。
鞍上は主戦のステファン・パスキエ騎手から、日本の競馬を知り尽くすクリストフ・ルメール騎手へ乗り替わりで挑む。
そのオネストにパリ大賞で2着に敗れたのが、シムカミル。
同じくフランスからの3歳馬であり、何よりその後のGⅡニエル賞で日本から遠征したドウデュースを退けた脚が印象的だ。
ドイツから参戦のテュネスもまた、怖い3歳馬。
GⅠバイエルン大賞を含む5連勝中と、パフォーマンスを発揮している。
昨年の凱旋門賞馬・トルカータータッソは、同馬の半兄にあたる。
さらに、昨年のジャパンカップで5着に入線したグランドグローリーが、今年も参戦。
今年の凱旋門賞でも5着と、タフに走り続ける6歳牝馬の一発にも期待がかかる。
迎え撃つ日本勢の大将格はシャフリヤール。
昨年のダービー馬は、今年のドバイシーマクラシックでも優勝。
秋の天皇賞(5着)はもう一息も、このジャパンカップが最大目標だろう。
そして3歳馬ダノンベルーガ。
春のクラシックでは連続4着のあと、秋は古馬との対戦を選択。
天皇賞・秋で3着に入り、地力の高さを見せつけたが、その才がこの大舞台で開花するか。
さらには昨年のオークス馬・ユーバーレーベン、GⅡ京都大賞典勝ちから挑むヴェラアズール、あるいは大怪我を乗り越え、GⅢ成尾記念で重賞初制覇を成し遂げたヴェルトライゼンデあたりも虎視眈々。
そして、GⅢ福島記念を制したユニコーンライオンが、逃げ候補か。
さらに復活を期す牝馬三冠馬デアリングタクトは、松山弘平騎手に替わってトム・マーカンド騎手を配して好機をうかがう。
霜月終わりの府中に、18頭の精鋭が揃った。
当日は快晴、まさに日本晴れの下、良馬場での開催。
10月頭から続く2連続開催の最終日ながら、馬場のコンディションはよく、内が有利な馬場状態に見えた。
3.レース概要
枠入りを嫌ったテュネス、そしてシャドウディーヴァが若干出遅れ。
東京2400の難しい1コーナーまでの入り、先手を主張したのはやはりユニコーンライオン、それにハーツイストワール、テーオーロイヤルの外目の馬たちが続く。
フランスのシムカミルも最内から前目を主張、ヴェルトライゼンデあたりもそれに続く。
オネスト、グランドグローリーの海外勢は中団前目、14番枠からのダノンベルーガはその後ろ、さらに一列後ろにヴェラアズール、デアリングタクトあたり。
1番人気を背負ったシャフリヤールは、中団やや後方の外目からの追走、外17番枠のユーバーレーベンも同じく後方からの追走。
向こう正面に入り、馬群はばらけずに一団となって進む。
ユニコーンライオンと国分優作騎手はそれほど引っ張らずに、前半1000mを61秒前半のラップを刻む。
馬場とクラスを考えると、スローの上り勝負になりそうだ。
そのまま一団となった隊列のまま大欅を過ぎ、勝負の4コーナーへ。
残り300mを切って、外から抜け出そうとしたダノンベルーガ、それに照準を合わせてシャフリヤールも伸びる。
最内からはヴェルトライゼンデ、さらにはデアリングタクトも脚を伸ばす。
残り200m、ダノンベルーガ、シャフリヤール、ヴェルトライゼンデの3頭に絞られたが、ダノンベルーガの脚色が鈍る。
内外並ぶ、シャフリヤールとヴェルトライゼンデの同じ勝負服。
しかし、内から赤い帽子、ヴェラアズールがその2頭の間を割って伸びてくる。
残り100mを切って、ヴェラアズールがぐい、と前に出て、差し切った。
ヴェラアズール1着、勝ち時計は2分37秒8。
4分の3馬身差の2着にシャフリヤール、さらにクビ差でヴェルトライゼンデ。
以下、デアリングタクト、ダノンベルーガまでが掲示板を確保。
従前に続いて、日本調教馬が掲示板上位を独占し、そのうちのダノンベルーガを除く上位4頭が、短期免許で来日中の外国人ジョッキーが騎乗していた馬となった。
ヴェラアズールが、GⅠ初挑戦で初戴冠の偉業を達成した。
4.各馬戦評
1着、ヴェラアズール。
GⅡ京都大賞典で重賞初制覇を成し遂げてから、わずか1か月半後にGⅠの頂点まで上り詰めようとは。
まさに昇り龍のごとき、驚異の国際GⅠ制覇。
脚元の不安もあり、3歳3月と遅咲きのデビューから一貫してダートを使われてきて、芝のレースを使い始めたのは今年の2月から。
芝に転向してからは今日のレースで6戦4勝と、まさに破竹の勢いで上り詰めた。
この馬の才能が花開くことを信じ続けた、陣営には称賛を送りたい。
戦績の馬柱を眺めているだけで、陣営の苦労と工夫、そして期待が感じられ、それだけでニタニタしてしまいそうだ。
渡辺薫彦師は、調教師として初めてのGⅠ勝利をこのジャパンカップの大舞台で成し遂げた。
ナリタトップロードとの名コンビが、ことさらに懐かしく感じられる。
それにしても、スローペースでもインを突く、ライアン・ムーア騎手の手綱さばきには痺れた。
直線、何度も前が壁になり進路がなくなりながらも、残り200mを切った土壇場で進路を見つけると、そこに同馬を導いた。
ヨーロッパの競馬は、こうしたスローペースで密集する展開が多い印象だが、「こんなものは慣れたもの」といった塩梅だろうか。
改めて見返しても、溜めに溜めて、前が空いた瞬間に馬のすべての力を解放させる騎乗が、見事としか言いようがない見事なものだった。
まさに名手、素晴らしい騎乗を見せていただいた。
2着、シャフリヤール。
天皇賞・秋5着から、巻き返しての2着。
やはり、ここが大一番の目標の仕上げだったのだろう。
内有利な馬場に加えて厳しい外枠からの発走で、外を回らざるを得ない展開の中、できることはやって強い競馬での2着といえるが、斜行により後続馬に影響があったことは残念だった。
これで、この秋は休養だろうか。
強いダービー馬の走りを、また楽しみにしたい。
3着、ヴェルトライゼンデ。
5番枠を活かし切る競馬を、ダミアン・レーン騎手がやり切っての3着。
直線、一瞬「やったか」と思わせたほどだった。
2歳時から才気を見せていた中、怪我による長期休養がありながら、ここまで来たことが何よりも素晴らしい。
陣営の尽力には、賛辞を贈りたい。
4着、デアリングタクト。
エリザベス女王杯から中1週、鞍上も変更して「勝負手」で挑んだ牝馬三冠馬。
シャフリヤールの斜行による影響がありながら、勝ち馬からそれほど差のない4着を確保したのには驚いた。
陣営もコメントを出していた通り、「まだ枯れていない」ことを証明した。
繋靭帯炎の重傷を負いながら、この舞台で掲示板に載るまでに戻ってきたことだけでも、この馬の精神力の高さを示すものだといえる。
まずはゆっくりと休養を取ってもらい、今後の行く末を楽しみにしたい。
5着、ダノンベルーガ。
直線最初に抜け出したが、その後差されたのは距離の影響か。
シャフリヤールの斜行の影響を大きく受けたのも残念だったが、審議にならなかったように脚もほとんど残っていなかったか。
とはいえ、3歳で天皇賞・秋、ジャパンカップの両方で掲示板に載るのは、見事なもの。
来年、さらにその才を輝かせることを楽しみにしたい。
外国勢は、昨年に続いて出走のグランドグローリーの6着が最先着。
7着にオネスト、9着にテュネス、15着にシムカミルと、今年も地の利のある日本馬の牙城を崩すことはできなかった。
いつか、必ず。その信念が、拓いた世界。
2022年ジャパンカップ、ヴェラアズールが制す。
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