2021年の2歳牝馬チャンピオンを決める、阪神ジュベナイルフィリーズ。
昨年は純白のソダシと吉田隼人騎手が戴冠し、そのまま翌年の桜の女王にも輝いたのが、記憶に新しい。
2021年の今年は、素質馬から重賞実績のある馬など、多彩な18頭が出走し、混戦の様相。
同日施行された香港国際競争に、川田将雅騎手と福永祐一騎手が遠征したため、出馬表にその名はなかったが、代わりに名手、クリスチャン・デムーロ騎手が3年ぶりの来日。
昨年来の感染症禍により、短期免許で来日・騎乗する外国人ジョッキーが激減して久しいが、久々に来日した超一流の手綱に注目が集まる。
そのクリスチャン・デムーロ騎手は、9月の新馬戦、そして赤松賞とマイル戦を連勝して臨む、1番人気のナミュールに騎乗。
2番人気には、GⅢサウジアラビアロイヤルカップで牡馬に混じっての2着から臨む、ステルナティーアとクリストフ・ルメール騎手、それに続くは未勝利戦、GⅢアルテミスステークスと連勝中のサークルオブライフとミルコ・デムーロ騎手。
曇天の下、3か月連続開催となった師走の阪神競馬場に、GⅠのファンファーレが鳴る。
ゲートが開くと、そのクリスチャン・デムーロ騎手の17番ナミュールが大きく出遅れ。1馬身以上のビハインドを背負って、後方からの追走となる。
じりじりとした先行争いの中、外からハナを奪ったのは横山和生騎手のダークペイジ、さらに好枠のトーホウアラビアンもそれに続いて、後続を少し離す形。
間の空いた3番手に、武豊騎手のウォーターナビレラがポジションを取り、ルメール騎手のステルナティーアは少し抑えながら先団の一角をキープ、さらにはその後ろのちょうど真ん中あたりにサークルオブライフ、その内にナムラクレアと浜中俊騎手。
出遅れたクリスチャン・デムーロ騎手は、ナミュールを内からロスを最小限に留めつつ押し上げ、前に壁をつくって脚を溜める。
ベルクレスタ、スタティスティクスあたりは最後方からの追走といった態勢。
しかし、道中は各馬折り合いに苦心して、落ち着かない様相を感じさせる道中だった。半マイルの時計は46秒4も、ウォーターナビレラ以下は平均以下のペースになっていたか。
3コーナーあたりで松山弘平騎手がベルクレスタを捲り気味に押し上げ、馬群が凝縮されていく。
前2頭との差がなくなって直線を向くと、ウォーターナビレラが前2頭をかわし、脚を伸ばす。
ベルクレスタが外から伸び、内では団野大成騎手のラブリイユアアイズも伸びてくる。
しかし、大外から白のシャドーロール、黄色の勝負服が豪快に伸びる。
サークルオブライフ。
ミルコ・デムーロ騎手の豪快なアクションに応え、馬場の真ん中を伸びて差し切った。
2着には内のラブリユアアイズ、3着にウォーターナビレラ、ナミュールは荒れた最内をよく伸びたが、4着が精一杯だった。
1着、サークルオブライフ。
3連勝でGⅠ勝利、2歳牝馬の頂点に立った。
道中、押し上げていったベルクレスタを露払いに、ワンテンポ遅らせて外に持ち出して、豪快に差し切ったミルコ・デムーロ騎手の見事な騎乗だった。
弟のクリスチャン・デムーロ騎手が1番人気に騎乗した大一番で、兄貴の意地を見せてくれた。
オークスのユーバーレーベン以来のGⅠ勝利、やはりこの人には大舞台の勝利がよく似合う。
そして、生産者である名門・千代田牧場は、オーナーブリーダーとしては2002年阪神ジュベナイルフィリーズのピースオブワールド以来となるGⅠ制覇(生産馬としては、2014年朝日杯フューチュリティステークスのダノンプラチナ以来)。
その当時から代替わりして、先代から引き継いだ飯田正剛氏がオーナーを務めておられるが、先代のころのスマイルトゥモロー、ピースオブワールドの黄色い勝負服を、懐かしく想起させてくれる勝利となった。
米国から輸入した3代母・スターマイライフから連なる母系は、千代田牧場が紡いできた、名門の誇りともいえる。
そして父・エピファネイアからは、初年度産駒のデアリングタクト、2年目のエフフォーリア、そして3年目もこのサークルオブライフと、3世代連続でGⅠ馬が誕生した。
先日、来年度の種付料が1000万円と、今年度から倍増したことで話題となったが、その価格に違わぬ、大舞台での産駒の活躍ぶりである。
話題に事欠かないサークルオブライフだが、来春のクラシックに向けて楽しみは尽きない。
何はともあれ、まずは無事に冬を越し、春を迎えてくれることを願っている。
2着には、ラブリイユアアイズ。
好発から無理せず自然な形で先団のポジションを確保し、余裕を持っての追走。
直線はウォーターナビレラとは逆に内を突いて、脚を伸ばして2着を確保。
これ以上ないと思わせるくらいの、団野騎手の好騎乗だった。
重賞初勝利となった、今年1月のGⅡ日経新春杯(ショウリュウイクゾ)から、6月にもGⅢ福島牝馬ステークス(ディアンドル)も勝ち、着実に力を伸ばしている団野騎手。
ラブリイユアアイズとのコンビでGⅠ戦線での活躍を期待したい。
新世代といえば、同馬の父は新種牡馬のロゴタイプ、ネクスト・ジェネレーションを感じさせるコンビは、新しい風を巻き起こせるだろうか。
3着には、ウォーターナビレラ。
離して逃げた2頭の後ろで、ペースを握っていたのは武豊騎手とこの馬だったか。
描いていたシナリオ通りに直線まで運んだが、最後は前の2頭に差される形になった。
前走のGⅢファンタジーステークスでも、好位からそつなく勝ち切っており、競馬自体の上手さ、完成度の高さは世代のなかでも上位なのだろう。
実弟・武幸四郎調教師の管理馬での初めてのGⅠ制覇ならなかったが、見せ場十分の3着は、名手の手腕によるものが大きかった。
この馬の父も、新種牡馬で旋風を巻き起こしつつある、シルバーステート。
次代の胎動が、聞こえてくるような感がある。
1番人気に支持されたナミュールは、4着。
スタートの出遅れがすべて、といってもいい今日のレースだっただろう。
とはいえ、そこから内にするすると潜り込み、脚を溜め、さらに直線は最内を突いて、ロスを最小限に留める競馬をした、クリスチャン・デムーロ騎手の技術は、やはり見事だった。
脚力は間違いなく世代上位だが、ゲート難、気性の難しさを、春に向けてどう扱っていくのか、注目していきたい。
名門の誇りが詰まった少女、見事にエスコートした兄貴。
2021年阪神ジュベナイルフィリーズ、サークルオブライフとミルコ・デムーロ騎手が差し切った。