1.人生の一里塚、有馬記念
師走に入ると、なぜか心が気ぜわしくなる。
12月という一か月も、1月という一か月も、どちらも変わらぬひと月なのに、師走はどこか慌ただしく、そして切なくなる。
まるでこの短い期間に、終わりと始まり、生と死、陰と陽が凝縮されたような、そんな趣がある。
過ぎゆく年に想いを馳せながら、年が明ければ新たな年の訪れを祝う。
そんな繰り返しが織りなすのが、生きることなのかもしれない。
そんな師走の終わりに、有馬記念はやってくる。
毎年繰り返される風物詩は、歳を重ねるごとに人生の一里塚となっていく。
暮れの中山、芝の内回り2500m。
予想しがいのある難コースを、ファンの夢を乗せた優駿たちが挑む。
その馬柱を眺めながら、2022年を彩った走りに想いを寄せるとともに、その時の自分を振り返る。
ダービーの時期は、あんなことがあった。
天皇賞のころは、こんなことを考えていた。
そんなことを考えながら、果ては出走馬の血統表に載る名馬が有馬記念を勝った時の自分を思い出してみたりもする。
そんな想いに浸りながら、気ぜわしい師走の「有馬記念ウィーク」は過ぎていく。
生きることと、有馬記念を楽しむことは、歳を重ねるごとに不可分になっていく。
2.出走馬概要
中山2500mのフルゲート16頭に、GⅠ馬6頭が出走。
また、有馬記念ファン投票における上位10頭のうち、6頭が出走となった。
さらには、有馬記念を除く2022年の古馬中長距離GⅠの6つを勝った馬がすべて出走となり、まさにドリームレースにふさわしい出走馬が揃った。
ドリームレースの中、1番人気に支持されたのは3歳馬イクイノックス。
皐月賞、ダービーと僅差での2着が続いた春のクラシック、その無念を晴らした天皇賞・秋の快走。
古馬を向こうに回して、豪脚とともに勝ち切った姿は、まさに登り龍のごとし。
有馬記念で有終の美を飾った父・キタサンブラックとともに、父仔制覇がかかる。
デビューから手綱を取るクリストフ・ルメール騎手が、史上最短となるキャリア6戦目での有馬記念制覇に導くか。
続く2番人気となったのが、歴代最多となる36万票以上を獲得しファン投票第1位となったタイトルホルダー。
今年は春の天皇賞、宝塚記念を連勝して、まさに充実の一途。
遠くフランスの凱旋門賞では極悪馬場も堪えたか11着に沈むも、そこからの巻き返しを図る。
鞍上・横山和生騎手とともに、現役最強のタイトル獲りに挑む。
3番人気は、エリザベス女王杯勝利から臨む、4歳牝馬のジェラルディーナ。
GⅠ7勝の母・ジェンティルドンナもまた、ラストランとなる有馬記念を勝って引退した。
超良血馬の覚醒と充実は、牡馬をも呑み込むか。
短期免許で来日中のクリスチャン・デムーロ騎手とともに、歴戦の牡馬を相手に激走するか。
さらに今年のジャパンカップを制したヴェラアズールが、4番人気。
ダートから芝へ転向6戦目で国際GⅠ制覇の偉業から、約1か月。
年末のグランプリまで、この快進撃は続くのか。
鞍上は、前走のライアン・ムーア騎手から、松山弘平騎手に乗り替わり。
5番人気には昨年の勝ち馬・エフフォーリア、ファン投票第2位での選出。
昨年は横山武史騎手とともに、天皇賞・秋から連勝。
新たなヒーローの誕生と、新時代の訪れを予感させる勝利を飾ったが、今年は大阪杯9着、宝塚記念6着とまさかの苦戦が続いた。
連覇が期待された天皇賞・秋も、脚部不安が拭えずに回避。
しかし、この有馬記念出走を決めてからは状態を上げてきており、史上5頭目となる同レース連覇に挑む。
先日、調教師試験に合格し、来年2月での騎手引退を表明した福永祐一騎手。
現役最後の有馬記念は、菊花賞2着の3歳ボルドグフーシュと挑む。
さらには、今年の大阪杯勝ち馬のポタジェ、昨年のエリザベス女王杯馬・アカイイト、新星・ジャスティンパレス、そして凱旋門賞帰りのディープボンドなど、16頭が暮れのグランプリに挑む。
3.レース概要
5番のジェラルディーナが後手を踏み、1馬身ほど出遅れてのスタート。
それ以外はほぼ揃った出足から、押してハナを主張したのは、やはりタイトルホルダー。
13番枠と外枠からの発走ながら、凱旋門賞に続いて逃げを打つ。
外枠のブレークアップ、ジャスティンパレス、そしてディープボンドも出して行って前目につける。
インコースからイズジョーノキセキ、その外目からエフフォーリアが追走。
イクイノックスはちょうど中団の外目、エフフォーリアを前に見る位置取り。
その一列後ろには、ヴェラアズールとアリストテレス。
出遅れたジェラルディーナ、ボルドグフーシュは後方からの態勢。
それほど馬群はばらけず、1周目の正面スタンド前を通過していく。
この一度スタンド前を通過するコース設定が、有馬記念らしさのように感じる。
あと1分少々もすれば、結果は出る。
それでも、この道中は、未来は「未定」なのだ。
能力の有無、位置取りの有利不利は、確かにある。
けれども、それでも、未だ何も決まっていないのだ。
どの馬にも希望があり、その希望を信じて、誰もが応援を送る。
それはどこか、年の暮れに、未だ見ぬ年の希望を信じることと、どこか似ている。
有馬記念の1周目スタンド前は、格別だ。
先頭のタイトルホルダーが、後続を2馬身ほど離しての逃げを打つ。
前半1000mは1分1秒2。
昨年の59秒4を考えると、幾分緩めのペース。
それを見越してか、徐々に後続馬が差を詰めていき、ペースは後ろがかりに。
3コーナーをカーブして、ディープボンドが先頭に並びかけんとする横から、エフフォーリアも上がっていく。
さらにその外から、イクイノックス。
そして後方からは、ボルドグフーシュが大きく外からまくっていく。
迎えた直線。
前を捉えたエフフォーリア、しかし抜群の手応えでイクイノックスが抜け出す。
1馬身、2馬身…中山の急坂をものともせず、伸びる。
それを外から追うボルドグフーシュ。
さらにその後ろからジェラルディーナも脚を伸ばす。
内では、エフフォーリアとイズジョーノキセキが並んでいる。
しかし、先に抜け出したイクイノックスは、最後まで伸びた。
悠々と余裕を保って、ゴール板を通過した。
2着にボルドグフーシュ、3着にジェラルディーナ。
イクイノックスが、2022年有馬記念を制した。
4.各馬戦評
1着、イクイノックス。
天皇賞・秋で見せた末脚を、この暮れのグランプリでも爆発させた。
2着馬、3着馬は後方から差してきただけに、この勝利の価値は高い。
4コーナー手前で、もう勝負あり。
そう思わせるほどの、ルメール騎手の手応えは抜群に見えた。
前走の天皇賞・秋よりも、さらにパワーアップしたように見えた馬体は、まさに芸術品のようだった。
脚元に不安があるなか、細心の注意を払い調整をしてきた陣営に、あらためて賛辞を贈りたい。
GⅡ東京スポーツ杯2歳ステークスから、皐月賞に直行した異例のローテーションなど、前例にとらわれずにこの馬の才能を信じていたからこそなのだろう。
今後もコンディション調整が最大の問題になると思われるが、間隔を空けながらでも、その才能の輝きを来年も見たい。
そして、父・キタサンブラックは、初年度産駒からチャンピオン級の産駒を送り出すことに成功。
繁殖牝馬の質がさらに上がる今後は、さらに楽しみが広がる。
あのディープインパクトの兄・ブラックタイドから連なる血が、こうして2022年に爆ぜるのは、つくづく血統とは面白い。
2着、ボルドグフーシュ。
好枠を引きながら、肚をくくっての後方待機。
スタートの出足が若干遅れ気味だったこともあったが、この馬の長所である持久力の高さを、この中山2500mで最大限に活かすのは、この作戦だったのだろう。
好枠を活かすために無理にポジションを取りに行かず、大胆に3コーナーからまくっていく福永祐一騎手の騎乗と判断に、凄みを感じる。
福永騎手は、騎手として最後の有馬記念で、生涯最高着順の2着。
勝ち馬に届かなかっただけで、見事な騎乗だった。
つくづくも、その手綱が来年2月末で見られなくなることを、寂しく感じる。
馬はまだ3歳、来年は長距離路線の主役を張るのだろうか。
どこまで飛躍するのか、福永騎手最後の有馬記念の記憶とともに、楽しみにしたい。
3着、ジェラルディーナ。
出遅れから、クリスチャン・デムーロ騎手がうまくリカバー。
最後の伸び脚は際立っており、3着を確保した。
欲をいえば偶数番の枠がほしかったが、出遅れたことで展開が向いたようにも見えた。
9月のオールカマー、11月のエリザベス女王杯ときて、ここでも地力の高さを見せ、まさに充実の一途。
来年は古馬中距離戦線の主役となるだろうか。
4着、イズジョーノキセキ。
エリザベス女王杯10着から、見事に巻き返した。
2番枠のメリットを、存分に生かしたコース取り。
岩田康誠騎手の真骨頂を見たような、そんな騎乗だった。
道中それほどペースが緩まなかった中で、末脚を伸ばしたのは価値が高い。
産駒が早熟と見られることもある父・エピファネイアだが、ぜひ息の長い活躍を見せてほしい。
5着、エフフォーリア。
位置取りから何から、やれることはやって、意地を見せての5着。
調教、馬具など陣営も工夫を続けており、苦しんだ2022年の最後に、希望を見せてくれた。
昨年秋の快進撃を見れば、その能力の高さは疑いようがない。
いずれにせよ、昨年の年度代表馬。
もう一度、その輝きを見ることを楽しみにしたい。
その末脚が切り拓く、明日への扉。
2022年有馬記念、イクイノックスが制す。
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