風が薫り、緑が鮮やかに色づく皐月の季節、5月1週目の日曜日。
遠く離れたアメリカでは、「最も偉大な2分間」と称されるケンタッキーダービーが行われる季節でもある。
2022年の今年は、日本からクラウンプライドがクリストフ・ルメール騎手とともにが出走。
積極的な競馬を見せるも、直線伸びを欠き13着に敗れた。
勝ったのは、繰り上がり出走で現地では単勝最低人気だった、リッチストライク。
競馬は何が起こるか分からない。
挑戦を続けることの大切さと偉大さを、あらためて痛感する。
日本では、3歳マイル王者決定戦、GⅠ・NHKマイルカップが行われた。
緑の映える府中のターフに、快速自慢の3歳18頭が揃う。
今年も見事な、「NHK交響楽団とその仲間たち」によるファンファーレ。
ゲートが開いた刹那、大きく出遅れたのは武豊騎手のジャングロ。
前走GⅡニュージーランドトロフィーを逃げ切っていた同馬だったが、後方からの競馬を強いられる。
前の方は、好枠のキングエルメス、トウシンマカオに加えて、外からオタルエバーの3頭がハナを争う。
1番人気に推されたセリフォスは、番手集団からの追走。
さらに2番人気のインダストリアは中団の内、大外18番枠から発進のダノンスコーピオンは中団外目あたりにポジションを取る。
出遅れたジャングロは最後方から、その前には3番人気のマテンロウオリオンと横山典弘騎手。
向こう正面半ばでトウシンマカオがハナを取り切って隊列が決まるが、前半の3ハロンは34秒1と、馬場を考慮してもかなりのハイペースのように見えた。
戦前はジャングロが溜め逃げを打つ予想も多かったが、フタを開けてみるまで、レースは本当に分からないものだ。
逃げたトウシンマカオが先頭のまま、直線へ。
それに迫るキングエルメス、そして最内からセリフォスも脚を伸ばす。
しかし、残り200mを切って、ちょうど馬場のやや外目のコースを選んだダノンスコーピオンが、それらをまとめてかわす勢いで伸びる。
川田将雅騎手の右鞭に応え、先頭に立つダノンスコーピオン。
しかし、大外から恐ろしい勢いで伸びてくる、白い帽子。
マテンロウオリオン。
さらにその内から、カワキタレブリーも来ている。
残り50m、一完歩、一完歩と差を詰めるマテンロウオリオン。
届くのか、どうか。
並びかけたところが、ゴール板だった。
際どい差だったが、ダノンスコーピオンが残していた。
クビ差でマテンロウオリオン、さらにクビ差の3着にカワキタレブリー。
ダノンスコーピオンが、3歳マイル王者の座に輝いた。
1着、ダノンスコーピオン。
大外枠のスタートから、川田騎手の見事なエスコート。
枠による有利不利が少ないといわれる、府中のマイルだが、それでも大外からの発走で、中団外目のポジションを落ち着いて取るあたりが、名手の手綱さばき。
新馬・萩ステークスの勝ち方が出色で、クラシック戦線でも注目されていた同馬だったが、マイルの距離で花開いた。
父・ロードカナロア、安田隆行調教師、ケイアイファーム、「ダノン」の勝負服とくれば、スプリントGⅠを2勝したダノンスマッシュを思い出す。
次走は安田記念との話もあるが、マイル戦線の新星の活躍を楽しみにしたい。
2着、マテンロウオリオン。
天才・横山典弘騎手ここにあり、というような、背筋に粟が立つような騎乗だった。
ダノンスコーピオンで決まったと思った残り100m、視界の外から飛んでくるような末脚。
道中は出遅れたジャングロの前を、悠然と追走。
そこのポジションから、どうなのか…と思っていたが、終わってみれば「疑ってすいませんでした」としか言いようがない。
万両賞では最後方から追い込み、シンザン記念では好位抜けだし、前走のニュージーランドトロフィーでは中団から。
まさに変幻自在のレースぶりは、横山典弘騎手の円熟の技を見るようだ。
昨年は重賞未勝利だったが、今年はすでに重賞3勝。
ご子息の和生騎手・武史騎手が活躍が目立つが、この「家長」の手綱から、目が離せない。
このオリオンとのコンビで、マイル路線を賑わせてほしい。
3着、カワキタレブリー。
最低人気から、あわやの激走。3連単150万オーバーの立役者。
前走が負け過ぎとはいえ、2歳時にはGⅡデイリー杯2歳ステークスで、セリフォスの3着にも入っていた。
何より、後方から末脚に賭けた菅原明良騎手の好判断。
追うほどに伸びる姿が、印象的だった。
今年の皐月賞を勝ったジオグリフと、同じドレフォン産駒。
これからも、ドレフォンは注目の必要がありそうだ。
2022年、NHKマイルカップ。
大外枠から冷徹な差しを見せた、ダノンスコーピオン。
星座の世界では、オリオンは蠍から逃げ回るとされるが、こちらの「スコーピオン」は「オリオン」の猛追を退けて、3歳マイル王者の座に輝いた。