2021年、朝日杯フューチュリティステークス。
来年の主役を担う若駒15頭の、阪神マイルを舞台にした競演。
1番人気に推されたのは、GⅢ新潟2歳ステークス、GⅡ京王杯2歳ステークスと重賞連勝で、3戦無敗のセリフォス。
鞍上には、短期免許で来日中のクリスチャン・デムーロ騎手を配し、2歳マイル王戴冠を狙う。
2番人気には、こちらも無敗でGⅢ札幌2歳ステークスを制しているジオグリフ。距離短縮となるこのレースを選択し、リーディングを独走するクリストフ・ルメール騎手の手綱を継続し、距離短縮となるこのレースを選択してきた。
さらには、マイル戦未経験ながら、新馬、アイビーステークスと1800mと2戦2勝でレジェンド・武豊騎手とともに臨むドウデュースが3番人気。
そして、こちらも2戦2勝、新馬、萩ステークスと強い勝ち方で底を見せないダノンスコーピオンは、前週香港遠征で検疫中の川田将雅騎手に替わり、松山弘平騎手が手綱を取り、4番人気に推されていた。
明日への希望にあふれる若駒のレースらしく、上位人気はすべて負けを知らない不敗の馬たちで占められた。
年の瀬も近づく、師走も半ば。折しも全国的に強い寒波が到来し、本格的な冬の訪れを感じさせる週末となった。
その寒空の下、ゲートが開く。
最内からカジュフェイスと秋山真一郎騎手が飛び出し、好枠のセリフォス、ダノンスコーピオンも前へ。
先行集団と後方集団の切れ目の中団外目にドウデュースはポジションを取り、ジオグリフとルメール騎手は後ろから2頭目、出遅れたシンミリテスの前から追走。
カジュフェイスが引っ張るも、好位のセリフォス、ダノンスコーピオンあたりは折り合いに苦心している様子がうかがえる。
ワンターンのコーナーをカーブして直線へ、各馬横一線に広がっての追い比べ。
セリフォスが抜け出そうとするも、その外からドウデュースの武豊騎手が迫る。その後ろからダノンスコーピオンも追う。
さらには、池添謙一騎手のアルナシームも内を突いて伸びてくる。
ジオグリフは直線を向いた際に、外に振られてもう一度追い直して苦しそうだ。
手に汗握る直線の攻防の最後は、抜け出したセリフォスとドウデュースの2頭が馬体を併せ、追い比べになったが、後から刀を抜いたドウデュースがわずかに前に出て、ゴール板を駆け抜けた。
ドウデュース1着。
2着に粘ったセリフォス、そしてその内から差してきたダノンスコーピオンが3着、ジオグリフは外からよく追い込んだが5着まで。
ドウデュースが、2歳マイル王の座に輝いた。
1着、ドウデュース。
多くの先行馬が折り合いに苦慮する中、中団で脚を溜めながらスムーズに競馬を進めた武豊騎手の好騎乗が光った。
入線後、大きな拍手が阪神競馬場を包んだ。
鞍上のレジェンド・武豊騎手の獲得してきた膨大なタイトルの中で、欠けていた「朝日杯」で、ようやく勝ったことを、ファンが一体となって祝福していたように見えた。
1994年のスキーキャプテンでの初騎乗から、数えて22度目の挑戦。
5度の2着という多くの惜敗は、挑戦者の証でもある。
悲願成るかと思われた2015年のエアスピネルでは、ミルコ・デムーロ騎手の駆るリオンディーズに差され、「空気の読めないイタリア人がいた」と笑っていたが、今日はその弟のクリスチャン・デムーロ騎手を差し切った形になった。
同馬のオーナーは、「武豊騎手に凱旋門賞を勝たせたい」と公言してはばからない、松島正昭氏のキーファーズ。オーナー初のGⅠ制覇となり、陣営の喜びもひとしおだろう。
これで武豊騎手は、JRAの平地GⅠ完全制覇まで、残りはホープフルステークスのみとなった。12月28日の同レースにも騎乗予定があるが、史上初の偉業を懸けての騎乗となるが、さて。
ドウデュースは、操縦性の高さと競馬の上手さを感じさせる。マイル未経験での朝日杯フューチュリティステークス制覇は、上記のリオンディーズ以来となる。
この後はどの路線に向かうのだろう。父・ハーツクライの血統的な背景からも、来年以降を楽しみにしたい。
2着には、セリフォス。
先行勢が崩れたレース展開の中の2着は、負けて強しの内容。前半、ずいぶんと掛かっていたように見えたが、それでも直線最後まで勝ち馬に抵抗していたのは、地力の高さだろう。
前進気勢が旺盛な分、マイルまでの距離がよさそうには見えるが、来春はどの路線を歩くのだろうか。来年の同世代をにぎわせてくれる存在になることを期待したい。
クリスチャン・デムーロ騎手は、この馬と他の馬の力関係を見た上で、正攻法の競馬に徹した。しかしながら、先週の阪神ジュベナイルフィリーズでも、1番人気を背負ったナミュールで大きく出遅れるなど、不完全燃焼を感じているのかもしれない。
まだ有馬記念、ホープフルステークスと大きなレースが残っているが、その手腕を引き続き楽しみにしたい。
3着のダノンスコーピオンも、セリフォスと同じように、先手のポジションを取りながら、少し折り合いに苦心しているように見えた。最後の直線、セリフォスを前においての進路選択に、若干スムーズさを欠いたか。それでも、選択した内から脚を伸ばしての3着は見事。
ジオグリフは外枠が厳しかったのか、マイルGⅠのペースに戸惑ったのか、後方からの競馬。このレースの流れを追走するのに苦労していた。直線入り口でコースを取り直したのも痛かったが、上り3ハロンは最速をマークしたように、力は見せた。
2021年、朝日杯フューチュリティステークス。
俊英・ドウデュースと不屈のレジェンド・武豊騎手のGⅠ勝利、それも鬼門だった朝日杯での勝利に、仁川のスタンドは温かな拍手に包まれた。
やはり、役者が違う。
挑戦を止めないレジェンドは、GⅠ完全制覇に王手をかけた。