大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

大逃走劇を差し切った、覚醒の末脚。 ~2022年 天皇賞・秋 回顧

秋の中距離戦線の大一番、天皇賞・秋。

秋深まる府中2000mを舞台に、「秋の盾」をかけて激突する伝統の一戦。

3歳と古馬、あるいはマイラーから中距離馬まで、例年幅広いメンバーが揃うが、2022年の今年は3歳馬の精鋭3頭が出走。

皐月賞、ダービーともに2着のイクイノックスとクリストフ・ルメール騎手が、1番人気に支持される。

同じく皐月賞、ダービーともに4着のダノンベルーガと川田将雅騎手は4番人気、さらに皐月賞馬のジオグリフと福永祐一騎手は、5番人気と、3歳馬が上位人気を占める。

適性を考え、菊花賞よりもこちらを選択する傾向は、年々強くなっていくようだ。

古馬の大将格は、昨年のダービー馬・シャフリヤールが2番人気。

今年はドバイシーマクラシックを制し、意欲的にイギリスのプリンスオブウェールズステークスに挑戦するも4着に敗れ、巻き返しを図る。

鞍上は、当週から来日したクリスチャン・デムーロ騎手。

そして、藤岡佑介騎手とジャックドールが3番人気。

前々走の大阪杯で連勝は止まったものの、GⅡ札幌記念では再び逃げ切りを見せて、大一番のタイトル獲りに挑む。

さらには夏の小倉で輝きを放ったマリアエレーナ、そして快速逃げ馬パンサラッサ、同距離の春の大阪杯を制しているポタジェ、昨年のオークス馬・ユーバーレーベンなど、15頭が秋の盾獲りに挑む。


 

陣営が「逃げ」を宣言していたパンサラッサと吉田豊騎手は、逃げることができるのか。

枠順が決定してから、一つの焦点がそれだった。

脚質は「逃げ」なれど、スタートからの出はそれほど速いわけではなく、むしろスピードが乗ってからそれを持続していくスタイル。

スタートすぐに2コーナーに入る東京2000mのコース、そして3枠という奇数の内枠という条件は、ある意味で同馬にとって非常に難しいものだ。

2コーナーで後手を踏めば、内に包まれて逃げられない可能性もある。

それを防ぐためには、周りよりも積極的に出していくしかない。

逃げられるのか、そしてジャックドールを含めた、他馬の動向は。

秋冷の府中に、ファンファーレが鳴り響く。

 

ゲートが開き、パンサラッサは五分のスタートを決める。

2コーナーに向かいながら、徐々にスピードを乗せて、向こう正面へ。

ノースブリッジが競りかけたが、岩田康誠騎手が手綱を引き、パンサラッサが先頭に。

バビット、ジャックドールといった先行組も、前目をキープ。

ジオグリフはちょうど中団、それを見るようにシャフリヤール。

イクイノックスは、発馬で若干後手を踏んだか、後方6,7番手のあたりのポジション、その後ろにダノンベルーガ。

パンサラッサが軽快に逃げ、隊列はやや縦長に。

徐々にリードを広げていくパンサラッサ。

1000m通過は57秒4の猛ラップ。

3コーナーの大欅では、2番手以降を大きく引き離す展開に、場内からはざわめきが。

 

15馬身以上もありそうなリードを保ったまま、府中の直線へ。

シャフリヤール、ジャックドールが仕掛け、追撃を開始。

しかし、残り200mの標識を通過しても、まだ10馬身以上の差がある。

これ、捕まえられるのか…?

誰の脳裏にもよぎったであろう疑問符を振り払わんと、後続馬がようやく差を詰める。

真ん中からシャフリヤール、ジャックドール。

そして外からイクイノックスとダノンベルーガ。

イクイノックスの脚色がいいが、パンサラッサも懸命の粘りを見せる。

この大舞台での「大逃げ」完遂か。

そう思われた残り数十m、イクイノックスが並びかけ、そして差し切った。

逃げ粘ったパンサラッサが1馬身差の2着、ダノンベルーガが3着、ジャックドール、シャフリヤールと入線。

イクイノックスが、秋の盾を制した。


 

1着、イクイノックス。

昨年のエフフォーリアに続いての、3歳馬での天皇賞・秋制覇。

グレード制導入以降、最小のキャリア5戦目での古馬GⅠ勝利ともなった。

父・キタサンブラックの産駒として初めてのGⅠ勝利とともに、親仔での天皇賞・秋制覇となった。

振り返れば、私も現地で観戦した昨年11月のGⅢ東京スポーツ杯2歳ステークス。

上り3ハロン32秒9という出色の脚を使って制してから、大器と評されてきたが、ここで大きな花を咲かせた。

春のクラシックでは、続けて厳しい枠が当たっていたこともあり、連続の2着に惜敗していたが、ここでその地力の高さを示した。

脚元に不安があると聞く中、その持ちうる力を発揮できる態勢を整えた陣営に、称賛を送りたい。

この後は、脚元と相談しながらのレース選定になると思われるが、またこの末脚の輝きを見られることを楽しみにしたい。

そして何より、ルメール騎手の手綱さばき。

道中は若干後ろのポジションになったが、無理なく折り合い、外に出して仕掛けを一呼吸遅らせての仕掛け。

上り3ハロン32秒7というイクイノックスの破壊力を引き出した、見事な仕掛けだった。

ルメール騎手は、これで秋の天皇賞は直近5年のうち3勝。

大舞台が続く秋のGⅠ戦線、やはり目が離せない。

 

2着、パンサラッサ。

このレースを名勝負にしたのは、間違いなく同馬。

その逃亡劇に、多くのファンが心を鷲掴みにされたのではないか。

残り200mを切ってから一杯になりながらも、懸命に粘るその走りには、感動を覚えた。

勝ち馬の上がり3ハロン32秒7、パンサラッサのそれは36秒8。

その落差が4秒1もあるレースなど、そうそうお目にかかれない。

GⅠの大舞台で、自分のスタイルを貫いた吉田騎手と同馬には、惜しみない賛辞を送りたい。

心躍らす大逃走劇、次はどこで見られるだろうか。

 

3着、ダノンベルーガ。

4コーナーで内に入ってどうかと思われたが、やはり伸びてきた。

上位2頭に迫る、素晴らしい伸び脚だった。

勝ち馬に次ぐ上がり3ハロン32秒8は、まさに破格。

春のクラシック連続4着から、ここでの3着は地力の高さと、世代のレベル自体の高さを示すものだった。

距離がもう少し短くても面白そうだが、今後の走りに期待したい。

 

ジャックドールは、道中4番手で我慢していたが、イクイノックス、ダノンベルーガの2頭に後ろから差される形での4着。

戦前は、パンサラッサに鈴をつけにいくのは同馬だと思っていたが、あのペースで逃げられると、追走するだけで潰れてしまいかねない。

札幌記念では、パンサラッサの番手から抜け出していたが、それも難しい形に仕立てた、吉田騎手とパンサラッサ陣営を褒めるべきなのだろう。

5着となったシャフリヤールは、最後の直線で伸びきれず。

先に仕掛ける形になったのも苦しかったかもしれないが、ジャックドールにも先着を許したのは意外だった。

次走はジャパンカップになるだろうか。

ダービーと同じ舞台での巻き返しに期待したい。


 

大逃亡劇、それを差し切った、覚醒の末脚。

2022年、天皇賞・秋、イクイノックスが制す。

 

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