大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

書評:根本裕幸さん著「つい他人と比べてしまうあなたが嫉妬心とうまく付き合う本」に寄せて

私がカウンセラーとして師事しております、根本裕幸師匠の新著「つい他人と比べてしまうあなたが嫉妬心とうまく付き合う本」(学研プラス、以下「本書」と記します)の書評を。

1.「嫉妬」とは、なんだろう?

誰もがイヤな、「嫉妬」という感情

「嫉妬心」と聞くと、いいイメージを抱く人は、あまりいないのではないでしょうか。

はい、私自身もそうです笑

「男の嫉妬は醜い」なんて言葉もありますが、嫉妬しちゃうものには、しちゃいますよねぇ…

私が嫉妬してしまう人。

同性・異性問わず、モテる人。
自由に生きているな、と感じる人。
好きなことに夢中になっている人。

…書いていて、モヤモヤしてきました笑

そんな、イヤーな「嫉妬」と言う感情。

本書は、そんな「嫉妬」について、書かれた本です。

「嫉妬」の公式

本書では、まず「嫉妬」という感情の正体について書かれています。

「嫉妬」とは、うらやましいと感じることと、ネガティブな感情があわさったときに、起きるものだとされます。

じつは私たちは、「いいなぁ、うらやましい!」と素直に認められる心理状態であれば、「嫉妬」をさほど強くは感じていません

多少の悔しさや寂しさはあるかもしれませんが、むしろ「おめでとう」「よかったね」と祝福し、「私もそうなれるように頑張る!」と前向きにとらえられるのが「うらやましい」という感情なのだと思います。

本書 p.22,23(太字部本文ママ)

たしかに、そうですよね。

「えー、いいなぁ。うらやましい!」と素直に言えるとき、そんなに後ろ向きな感じにはならないものです。

「嫉妬」のように、ドロドロした感じとは少し違って、カラッとしています。

しかし、それにネガティブな感情が加わると、少し違ってきます。

どうやら、「うらやましい」という気持ちに、次に紹介するようなネガティブな感情が入り込むと、嫉妬に姿を変えるようなのです。

それは、無価値観、劣等感、怒り、罪悪感、嫌悪感、無力感、不安。怖れ(抵抗)、不信感、失敗感、競争心、独占欲といった感情です。

本書 p.23

この太字の部分、見るのもイヤですよね…

どれもこれも、カウンセリングでも問題の根源となるような、オールスターチームみたいな感じますします。

普段見ないようにしている、これらの感情を呼び覚ますので、「嫉妬」はイヤなものに感じるようです。

とても分かりやすい公式として、本書では
「嫉妬」=「うらやましい」+「ネガティブ感情」
と表現されています。

なるほどなぁ、と思いますよね。

しかし、逆の見方をすると、「嫉妬」と向き合うことで、こうした様々な問題を引き起こす、ネガティブな感情を癒していくことができるとも言えます。

もしその無価値観を癒していくことができれば、純粋に「うらやましい」と思うだけになり、嫉妬する自分への苦しみから解放されます

本書 p.26

「嫉妬」はイヤなものですが、その分、大切な感情でもあるようです。

2.「嫉妬」は大切なもの?

「嫉妬」が気づきづらい理由

さて、そんな「嫉妬」ですが、厄介なことに、それに気づきづらいものです。

だって、イヤじゃないですか、大の大人の男が、ハンカチ噛んで嫉妬しているなんて…恥ずかしいんですよね。

「いや、嫉妬なんて、してないし」

と、ツンと澄まし顔でいたいと思うのが、人情ではないでしょうか。

え?私だけですか?そうじゃないと思いたいのですが…

それはともかくとして、「嫉妬」が分かりづらい原因として、嫉妬する「相手」と「対象」は別であることが、挙げられます。

私たちは、「人」に嫉妬すると思いがちです。

しかし、そうではなくて、実はその人が持っている「要素」に嫉妬していると、本書は述べています。

「異性からチヤホヤされている同僚」に嫉妬しているのであれば、その対象は「チヤホヤされること」です

そもそもチヤホヤされていなければ、その同僚に嫉妬を抱くこともないだろうと考えると、納得がいくのではないでしょうか。

本書 p.27

「嫉妬」を感じる対象は、人ではなく、要素である、と本書は述べています。

これは、「嫉妬」を考える上で、非常に大切なことです。

なぜならば、「嫉妬」という感情が与えてくれる恩恵に、深くかかわってくるからです。

「嫉妬」が教えてくれるもの

ここが本書の肝であり、著者の哲学だなぁ、と思うところです。

誰しもがイヤな、「嫉妬」という感情。

その「嫉妬」は、実は大きな恩恵を与えてくれるもの、と本書は述べています。

先ほど見た、私たちが「嫉妬」する対象となる「要素」。

それは、私たちが手に入れたいと望んでいるものであり、自分のなかにあるけれど気づいていないものです。

つまり、「嫉妬」は、私たちの本当の望みを教えてくれる、正確なコンパスであり、また私たちの魅力を映し出す鏡のようなもの、と言えます。

独立起業したことに嫉妬する人は、自分も独立起業したいと望んでいる人だけです

しかし嫉妬の感情のほうが強いため、その願望を自覚することはあまりありません。

本書 p.45

そうなんです。

私たちは、どうでもいいことには嫉妬しませんし、自分には手に入らないとわかっているものには、「嫉妬」しないんです。

完全試合を2試合続けてしてしまいそうになる、異次元の投球をする佐々木朗希投手には、「すごいなぁ」と思いこそすれ、嫉妬はしないわけです。

ダービーを5勝もする武豊騎手に、嫉妬はしないわけです。

しかし、異性にチヤホヤされてる人や、人気のカウンセラーなんかには、激しく嫉妬するわけです。

あ、すいません、個人的な話が過ぎました笑

あなたが嫉妬を感じるものというのは、あなたにとって欲しいものであり、大切なものであり、どうでもよくないものなのです。

しかも、手に入らないものには嫉妬しないわけですから、「本当に手に入ることを、心のどこかで理解しているもの」に対して嫉妬を覚えるわけです。

嫉妬はあなたにとって大切なものであり、欲しいものを教えてくれる感情

本書 p.47,48

「嫉妬」は、ネガティブな感情をともなうがゆえに、イヤなものです。

しかし、「嫉妬」と向き合うことは、そうしたネガティブな感情を癒すばかりではなく、自分を深く見つめるきっかけにすることができるようです。

「嫉妬」は、人生の羅針盤。

本書を読んでいると、そんな風に感じます。

3.「嫉妬」を感じたときの処方箋

7つのワークと、15個の切り替えスイッチ

とはいえ、「嫉妬」にくっついてくる、ネガティブな感情は、しんどいものです。

できれば、ご遠慮願いたいくらいです。

本書では、そのネガティブな感情と向き合うための、ワークや習慣が紹介されています。

「嫉妬」の根っこにある、ネガティブな感情を癒すためのワークが7つ。

そして、「嫉妬」を感じたときの、切り替えスイッチの提案が15個。

ワークを順番に取り組んでみてもいいですし、第4章をぱっと開いて、そこに書かれているスイッチにヒントをもらうのも、面白そうです。

その中で、私の好きなワークをご紹介します。

「魅力」のワーク

本書の第3章に掲載されているワークを、そのまま引用しますね。

質問1

あなたの周りにいる人は、どんな魅力を持った人ですか?
その魅力をリストアップしてみましょう。

質問2

あなたは、どのような人に憧れを持ちますか?
その憧れる要素をリストアップしてみましょう。

本書 p.103,104

私も、以前に著者のワークショップで、このワークをやってみたことがあります。

ぜひ、少し時間を取って、考えてみていただきたいと思います。

どんな人が思い浮かんだでしょうか。

どんな、要素がリストアップされるでしょうか。

 

すぐに、種明かしをしてしまうのが惜しいのですが、出てきた答えはすべて、「あなたが今持っている魅力や価値」になります。

えー?と思われますでしょうか?

私も、最初にこのワークをしたときは、とても受け入れることができませんでした。

「え?これが自分だって?絶対違うわ、こんなん」とか、よくそんなことを感じておりました笑

しかし、私たちは自分のなかに無いものを、自分の外(他人)に見ることはできないんですよね。

自分のなかに、その要素があるからこそ、他人のなかにその要素を見つけることができる。

「こんなの私じゃない!ぜんぜんそんなことない!」

そう感じる人もいると思いますが、そのリストを友人や他人に見せて感想を聞いてください。

おそらくほとんどの人がから「そうそう、確かにあなたってこんな人だよね」という答えが返ってくると思います。

本書 p.104

ほんと、そうじゃないんだけど、そうなんですよねぇ…(わかりづらい笑)

こんな風にして、肩肘張らずに、「嫉妬」のネガティブな感情と向き合い、癒していくことのできるワークや、本書ではたくさん紹介されています。

私も、初心に帰って、もう一度やってみたいと思います。

 

【私の周りの魅力を持った人】

  • 人の痛みに寄り添える人
  • 努力を惜しまない人
  • 人の見ていないところでゴミを拾う人
  • 素直な人、やりたいことをやりたい!と言える人

【私が憧れる人、憧れる要素】

  • 人のこころを動かす文章を書く人。
  • スター性やカリスマ性がある人、人を惹きつける人。
  • 男性としての魅力、色気があふれている人。
  • 話がうまくて、聞き惚れる人。
  • 好きなことに、純粋な人。

 

いやぁ、答え合わせをした後にここで書くのは、実に恥ずかしいものです笑

しかし、これだけではなく、他のワークもおすすめですので、ぜひ本書と一緒に取り組んでみてください。

他人の「嫉妬」と付き合う方法

さて、これまで自分の「嫉妬」との向き合い方について、触れてきました。

しかし、「嫉妬」の厄介なところは、自分が嫉妬する場合もあれば、他人から嫉妬される場合もあることでしょうか。

本書では、そんな他人からの「嫉妬」との付き合い方についても、書かれています。

嫉妬は、するのもされるのも苦しいもの。

自分の中に嫉妬が生まれたとき、「ああ、私はこの人のことがうらやましいのだ」と受け止めることが大切なように、嫉妬された場合もまずはこの意識です。

「ああ、あの人は私のことがうらやましいのだな」

本書 p.214

まずは、自分の「嫉妬」と同じように、ただそれが「ある」ことを認める。

そして、それは相手の問題であるから、線を引く。

相手のネガティブな感情に引っ張られそうになりますが、自分に意識を戻すことが大切です。

そして、最強の切り札は、やはり感謝、「ありがとう」のようです。

こうした状況では、「ありがとうございます」や「おかげさまで」という意図で返すのがオススメです

(中略)

高等なテクニックではありますが、いったん肯定的に受け取めてから返すようにすると、相手の攻撃的な言葉を封じることができるでしょう。

本書 p.227

感謝は万能薬、とは言われますが、「嫉妬」でも同じようです。

やっぱり、最後は「ありがとう」なんでしょうかねぇ…

4.「嫉妬」は自分を変えるチャンス

本書の根底に流れるのは、「嫉妬とはチャンスである」という考え方だと、私は感じます。

だからこそ、「嫉妬を無くそう」などと考えるのではなく、そこから何が得られるか?という見方が、幾度となく出てくるのでしょう。

嫉妬は「悪いもの/なくしたほうがよいもの」と考えると苦しくなります。

歯を食いしばり自身に言い聞かせて、無理になくすものではありません

大切なのは、これまでの考え方やものの見方を少しずつ変えていくこと

本書p.6,7

「嫉妬」を悪いもの、なくさないといけないもの、としてとらえるのではなく。

「嫉妬」が教えてくれるもの、「嫉妬」から得られるもの、「嫉妬」が与えてくれる恩恵に、フォーカスする見方。

それはきっと、「嫉妬」に限ったものでも、ないのでしょう。

本書は、タイトルの通り「嫉妬」をテーマにした実用書ですが、通読して感じるのは、そんな著者の哲学です。

そんな考え方、ものの見方を伝えてくれるのが、本書なのだと思います。

大丈夫

あなたは変わることができます

なぜなら、嫉妬という誰もができれば目を背けたい感情に向き合おうとしている時点で、あなたはとても純粋で優しく、魅力的な人だからです。

本書 p.4

「嫉妬」は、誰にとってもイヤな感情です。

しかし、そこには多くの恩恵や、ほんとうの自分の願いや魅力に気づくチャンスが埋もれているようです。

そんな大切なことを、本書は教えてくれます。

〇著者のブログでのご紹介はこちら。

nemotohiroyuki.jp