「死」というのは、カウンセリングのなかでも重要なテーマの一つです。
少し哲学的なテーマにもなりますが、「死」の痛みと、その先にある新たな生について考えてみます。
1.「死」をどう扱うか
「死」というものは、カウンセリングのなかでも大きなテーマです。
それは、親しい人を亡くしたりといった、直接的な「死」の場合もあれば、ものごとの「終わり」という意味の場合もあります。
後者でいえば、失恋や離婚、離職、あるいは挫折、燃え尽き症候群といった経験になるのでしょう。
そうしたものは、一見するとネガティブな経験のように見えます。
もちろん、誰かや何かを失うということは、とても辛く悲しいものです。
しかし、「死」の近くには「再生」もまたあるものです。
昼間の時間が最も短くなるのが「冬至」ですが、そこで反転して徐々に陽の長さが長くなっていきます。
「死」をどう扱うかというのは、その裏側にある私たちの「生」をどう見るのか、という視点と深く結びついています。
「死生観」という言葉があります。
その人の根源的な世界観を指す言葉ですが、この言葉では「死」が先に来ているのですよね。
「死」があって、「生」がある。
あるいは、「死」の先にこそ、「生」がある。
そうしたことを、指し示しているように思います。
先に挙げた季節にしても、あるいは植物や動物などの生命にしても、「死」と「生」を繰り返す円環のなかにいます。
「生」と「死」が、絶え間なく繰り返されている状態を、生命と呼ぶのでしょう。
2.「死」がもたらす痛みの本質
親しい人を亡くしたとき。
この身体の一部が、もぎ取られたような痛みを私たちは覚えます。
「死」があってこそ「生」もあるとはいえ、「死」がもたらす痛みは、私たちにとって特別なようです。
それは、愛する人に二度と会えないという怖さでもあり、自分自身の「死」を想像させる怖さでもあるのでしょう。
それは、私という個体の、唯一性と関連する痛みといえます。
季節は毎年めぐり、毎年新しい花が咲きます。
そういった意味では、生命が失われることはないのかもしれません。
けれども、「死」がもたらす痛みというのは、「この人」という唯一の存在を失うことへの痛みです。
いま、まさに過ぎようとしている春。
この目の前に咲く、桜。
それらは、唯一無二のものであり、二度と同じものには会うことはできません。
この世の中には、人があふれているように見えるけれども、喪った「その人」には、もう会えない。
その喪失感は、他の誰にも埋めることはできない。
それこそが、「死」がもたらす痛みの本質的なものといえます。
だから、親しい人を喪った悲しみのなかにいる人が、「亡くなった人のためにも、前を向いて生きないと」という言葉を聞いても、あまり意味をなさないのでしょう。
それは、失恋をした痛みのなかにいる人に対して、「これからもっといい人と出会えるよ」と励ますことと、似ているようにも思います。
もちろん、それらの言葉はどちらも、何も間違っていません。
けれども、あまりその悲しみの本質を癒すものでは、ないように感じるのです。
3.「死」の先にある新たな生
やはり、まずはその悲しみや痛みを、受けとめることから始まるのでしょう。
それは、とても長い時間がかかることかもしれません。
私自身も、20年以上も前に亡くした両親の痛みを、まだ受けとめられていない部分があります。
ただ、そこに遅いも早いもありません。
その悲しみ、痛みを、誰のものでもない、「あなた自身のもの」として感じていくこと。
それが、とても大切なことのように思います。
悲しみに暮れる、涙が枯れるまで泣く。
とてもしんどいことですし、それを感じるにはとても勇気の要ることです。
周りの人ができるのは、その人が悲しみに暮れることを、そのままにしてあげることなのかもしれません。
あなたの悲しみと、ともにいます。
そのようにして一緒にいてくれる存在が、どれほど支えになることか。
「死」が私たちにもたらすのは、根源的な痛みであり、強い悲しみです。
しかしその先には、新たな生があります。
季節がめぐり、また新しい花が咲くように。
その新しい花は、その前に咲いていた花もまた、内包しています。
「死」の先にある、新たな生。
それは、故人と「ともに生きる」という形の、新たな生です。
「死」が完全に私たちと故人を分断することは、ありません。
その先には、新しい生があります。
「死」がその人と私を、完全に分かつものではないように思うのです。
今日は、心理学というよりも、死生観といった哲学に近いテーマになりました。
ただ、冒頭に申しあげた通り、カウンセリングにおいても「死」は非常に重要なテーマの一つです。
引き続き、私自身のなかでも深めていきたいテーマでもあります。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
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