昼下りの時間に、外を歩いてみた。
そこには、もう肌を焦がすような日差しは、なかった。
見上げれば、どこか空に透明感が宿っていた。
アブラゼミの声が、出番を終えた役者の声のように聞こえた。
ああ、また夏が終わるんだ。
また一つ、私は掌中の珠を失くしたような、そんな気分になる。
少し歩けば、うだるような暑さがそこにある。
たまに吹く風は、湿気を含んでいて、なおさらに汗が吹き出てくる。
どうせ、これからもまた暑い日は戻ってくるだろう。
けれど、夏は、戻ってこない。
「この」夏は、終わったんだ。
夏の黄色が、しおれている。
それを見て、私は少し正気を取り戻す。
立秋。
秋、立てる日。
暦の上では、秋になった。
七十二候では、「涼風至、すずかぜいたる」。
暑い風の中にも、涼を感じる瞬間が現れる時候。
厳しい残暑は、まだまだ続くけれど、日を追うごとに夏は遠ざかってゆく。
いつも、過ぎゆくものに、人は心をうばわれる。
それが、戻ってこないものであればあるほどに。
夏は、私にとって、そのようなものなのかもしれない。
けれど、ただ目に映るその真実だけが、いつも正しい。
その瞬間を、味わい尽くすだけだ。
立秋。
過ぎゆくものを、追ってはならぬ。
いつも、過ぎゆく夏は、そんなことを教えてくれる。
大好きな夏は、いつもあっという間に過ぎてゆく。
過ぎゆくものばかりが、美しく。
それがゆえに、人は生きるのか。