そこには、温かい笑顔が
あふれる時間があった。
私には、「居場所」も「家族」もあった。
笑顔で走り回る子どもたちは、
確かにあの日の私だった。
一人寂しそうに俯いていた
あの日のたれ目の小さな私は、
かくれんぼをして、
ブランコをして、
すべり台に登って、
自転車で走って、
ダンゴムシを見つけて、
笑っていた。
ずっと、私は現実に絶望していた。
酒の席でもうすぐ来る「母の日」に
何をプレゼントするか、
という話題になった夜。
私の目の前に冷たく横たわる、
「現実」という名の化け物に打ちのめされ、
土砂降りの雨の中、
マクドナルドのシャッターの前に
へたり込んで嗚咽した。
世を拗ねて、
仕事に逃げて、
休みは暗い部屋のベッドで独り動けず、
いつか来るその日が早く来ればいいと願った。
みんなみんな、クソくらえだった。
それが、
調子に乗っていつの間にかフルボトルを一人で空けて、
さんざん酔っ払った帰り際、
たくさんの人から
「会えてよかった」
「温かい笑顔ですね」
「いつも読んでます」
「周りの人もみんな笑顔でしたよ」
「素敵な夢ですね」
「彼女があんなに笑顔で話すのを久しぶりに見たよ」
とか言ってもらえた。
どうしようもなく孤独?
欠陥人間?何の才能もない?
かわいそうな境遇?
そんなことを信じていた自分は、なんだったんだろう?
もう一度、家族と笑い合って過ごしたい。
その夢を信じたからそうなったのか。
それとも、諦めたから叶ったのか。
それとも、
私を引き上げる力を持った方との出会いがそうさせたのか。
それは分からない。
ずっと世を拗ねて諦めていたし、
そもそもそんな法則はないのかもしれない。
必死になって追い求めようが、
諦めようが、手放そうが、
それはなるようにしかならない。
私にできるのは、
ただ今この時間を味わい尽くすことだけなのだ。
どうせコントロールなどできはしないのだから。
さて、
あなたは何を失ってしまったと
感じていますか。
あなたは何に怖れを感じていますか。
あなたには何も起こってはいないし、
何も失われてはいません。
掌から零れ落ちたように見えたもの、
それは古くなったあなたのカケラでした。
できれば、
一つ花を思い浮かべてみてください。
季節がめぐれば、
美しく咲いたその花も散りゆき、
やがて若葉となり、
いつしかその葉もまた風に舞うでしょう。
けれども、何も失われてはいないのです。
また季節がめぐれば、
同じように美しく花は咲き誇ります。
何も失われてはいないし、
誰にも何も奪われることはないのです。
その花のように、
あなたは何も失われてはいないのです。
その花のように、
あなたはただあなたで在るだけなのです。