芒種を過ぎ各地から梅雨入りの報が届き始めると、いよいよ気温も上がり夏が近づいて来るのを実感する。
暑い夏がやってくる。
夏生まれだからだろうか、やはり四季の中で夏が来ると心が躍る。
その反面、お盆を過ぎた後にヒグラシやツクツクボウシの声を聴くと、寂しさとセンチメンタルで胸が一杯になるのだが。
その暑い夏の前の梅雨時、降りしきる雨の音に耳を澄ませていると、ふと遠く離れたブルーベリーの実に想いを馳せたくなる。
琵琶湖を見下ろす美しき農園。
その絶景は、今日の雨に煙っているのだろうか。
あのテラスのハーブたちは、降りしきる雨にその葉を揺らしているのだろうか。
パン工房から流れる焼きたての香りは、雨に燻る草の香りと入り混じっているのだろうか。
そして、この時期に結実しだすというあの丸々と大きなブルーベリーの実は、今日の雨の中でどんな表情をしているのだろう。
ぼんやりと、私の心はあのテラス席へと飛んでいた。
人を癒し、人と人をつなぐブルーベリー。
ぷちんと弾けて余韻に微かな酸味を残す、あの大きな実。
あのフレッシュジュースの、豊かな味わい。
心を溶かすような、あのジャムの甘さ。
一口ごとに身体が浄化されるような、あの料理の味わい。
人の脳は現実と空想を区別しないというが、その通りだと思う。
しばし目を閉じてあの豊かな時間と空間を夢想していると、それだけで満たされた気分になる。
空想もいいけれど現実もいいよね、と思いながら私はブルーベリージャムの蓋を開ける。
空想とは違った、現実の圧倒的な香りと甘みに、また私は癒される。
また、あの豊かな記憶の場所に行こう。
汗を拭いながら、あの坂を登ろう。
そう、ブルーベリーフィールズ紀伊国屋さんへと続く、あの坂を。