ずいぶんと、夜が長くなった。
鈴のような虫の声が、微かに聴こえた。
それを感じたくて、走りに出る。
川沿いに吹く風は、どこかに熱気を置き忘れたかのように感じた。
どこか、炭酸の抜けた飲料のようで。
そのぬるい空気の中、自分の足音と息遣いが響く。
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足元が明るいと思ったら、満月だった。
9月の満月といえば仲秋の名月だが、それは1ヶ月後らしい。
一日、一日と姿かたちを変える月。
街灯がなかった時代。
あるいは夜の闇がもっと濃かった時代。
昼の長さ、そして月の満ち欠けは、人々の活動にどれほど影響していたのだろう。
走りながら、そんなことを考える。
煌々と水銀灯が足元を照らしてくれるようになって、遠くまで歩くことができるようになった。
あるいは、白熱灯が部屋を照らしてくれたおかげで、夜にも読み書きができるようになった。
その恩恵とともに、追いやられた闇の暗さについて想う。
何かの虫の羽音が、近くを通り過ぎていった。
それは、夏を惜しんでいるようにも聞こえた。
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いつものコースを走り、いつもの休憩場所に着く。
息を整えながら見上げた月は、どこか微笑んでいた。
微笑む、長月。