牡馬クラシック三冠の掉尾を飾る、菊花賞。
京都競馬場の改修工事により、昨年に続いて阪神競馬場での開催。
仁川の3000m、阪神大賞典と同じ舞台で、18頭がクラシック最後の一冠の栄誉をかけて争う。
皐月賞馬・ジオグリフは天皇賞・秋へ、ダービー馬・ドウデュースは凱旋門賞へ、そして両レースで2着だったイクイノックスも天皇賞・秋へと向かった。
春のクラシック連対馬不在の菊花賞は、なんと1957年以来、65年ぶりとのこと。
その馬の適性に合ったレース選択が主流となった昨今における、象徴的な菊花賞ともいえる。
となると、人気を集めるのは前哨戦で結果を残した馬たち。
1番人気には、GⅡセントライト記念をしぶとく制したガイアフォースと松山弘平騎手、続く2番人気にはそのセントライト記念2着も、皐月賞5着、ダービー3着と世代上位の実績を持つアスクビクターモアと田辺裕信騎手。
そして良血馬・ドゥラドーレスと横山武史騎手が続き、GⅡ神戸新聞杯を勝ったジャスティンパレスとGⅠ初勝利がかかる鮫島克駿騎手は4番人気となっていた。
さらには神戸新聞杯上位のプラダリア、ポルドグフーシュ、ヴェローナシチーといった惑星も虎視眈々。
今年で83回目を数える伝統の一戦に、18頭が挑んだ。
秋らしい晴天、良馬場での開催。
阪神3コーナー手前からのスタート、確たる逃げ馬不在のなか、明確に「逃げる」意志を示したのは、セイウンハーデスと幸英明騎手。
番手のポジションには田辺騎手がアスクビクターモアを導き、ガイアフォースは先行集団の内目から。
17番枠と、厳しい枠順からの発走となったジャスティンパレスだったが、ちょうど真ん中あたりにポジションを取り、そしてその後方から構える形となったのがポルドグフーシュとドゥラドーレス。
18頭、やや縦長の展開となって、1週目の正面スタンド前を通過していく。
軽快に逃げるセイウンハーデス。
菊花賞、晴天、先頭を走る「セイウン」の勝負服とくれば、否が応でも1998年のセイウンスカイが思い出される。
セイウンハーデスは前半1000mを59秒を切るペースで通過していく。
タフな阪神3000mを考えると、かなりハイペースか。
1コーナーから2コーナー、向こう正面に入り、ペースも緩むかと思われたが、中間の1000mのラップも1分2秒7を計測。
2000m通過の2分1秒4は、いかにも速い。
息を入れずに逃げるセイウンハーデスだったが、3コーナー付近で徐々に後続も差を詰めていく。
やがて4コーナー手前あたりで、一杯になったセイウンハーデスを、番手のアスクビクターモアがかわして先頭に立ち、直線へ。
長い長い距離を駆けた先で、阪神の急坂に挑む18頭。
先頭のアスクビクターモアと後続の差は、3、4馬身ほどはありそうだ。
差を詰めてきたガイアフォースは内を選択するも、伸びあぐねている。
しかし、直線半ばから、後続から抜け出した2頭、ポルドグフーシュとジャスティンパレスが迫る。
必死に右鞭を振るう田辺騎手、しかしポルドグフーシュの脚色がいい。
アスクビクターモアとポルドグフーシュ、2頭の馬体が重なったところが、ゴール板だった。
差したのか、残したのか。
どよめきの残るスタンド。
しばらく間が空いた後、掲示板の一番上にはアスクビクターモアの14番の数字が灯った。
ハナ差の2着にポルドグフーシュ、そして3着にジャスティンパレスとなった。
勝ち時計3分2秒4は、2001年にナリタトップロードが阪神大賞典でマークした時計を0秒1更新する、コースレコードとなった。
1着、アスクビクターモア。
春の実績馬が、見事に仁川の舞台で菊の大輪を咲かせた。
セイウンハーデスがつくった速い流れを追走し、4コーナー先頭から最後まで押し切るという強い競馬。
中間のラップが緩まなかったことでレコード決着になったが、時計勝負に対応できる持久力を備えていた。
14番枠という外目の難しい枠から、逃げたセイウンハーデスの番手のポジションを奪取した、田辺騎手の手綱も光った。
田辺騎手は、これでうれしいGⅠ3勝目。
父・ディープインパクトから、また新たなクラシックホースの誕生。
折しも、この菊花賞の前日、英2歳GⅠ・フューチュリティトロフィーをディープインパクト産駒のオーギュストロダンが制したニュースがあった。
これにより、全13世代のすべてでGⅠ馬を輩出。
その父・サンデーサイレンスは全12世代からGⅠ馬を輩出してきたが、それを更新した形となった。
あらためて、何度でも、その血の偉大さを痛感する。
翻って、アスクビクターモア。
母の父・レインボウクエストがスタミナを補完しているのか、追ってしぶとく伸びる脚は、昨年の菊花賞馬・タイトルホルダーとの対決が楽しみになる。
年末の有馬記念での対決は、あるだろうか。
個人的には、来年の新装・京都競馬場での天皇賞・春でのステイヤー対決を楽しみにしたい。
2着、ポルドグフーシュ。
最後の直線、猛追もハナ差届かずの2着。
交わしたようにも見えたが、写真判定の結果は無常だった。
一貫して2000m以上を使われてきたように、陣営は長い距離を意識してきたように思われるが、それだけにこのわずかな差がもたらす「あちら」と「こちら」の差の大きさを想うばかりだ。
前走から手綱を取る吉田隼人騎手は、これまでよりも若干前目のポジションを取り、絶妙なタイミングで進出し、あと一歩まで迫った。
レースが上手ではないタイプだが、溜めて伸びる末脚は、今後の中長距離戦線をにぎわせてくれるのに違いない。
3着、ジャスティンパレス。
神戸新聞杯での好走そのままに、力を見せてくれた。
ただ、外枠かつ奇数枠という、厳しい枠の差もあったように思う。
しかし、それを感じさせないような、鮫島騎手のエスコートだった。
胸を張っての3着と言えるのではないか。
何度もGⅠで好騎乗を見せてくれる鮫島騎手、その手綱はGⅠを制するにふさわしいと感じる。
これからの大舞台での手綱にも、大いに期待したい。
春の雪辱は、仁川で大輪の菊となり咲き誇る。
2022年菊花賞、アスクビクターモアが制す。
【新刊ご案内】
〇「テイエムオペラオー競馬 世紀末覇王とライバルたち」(星海社新書)に執筆いたしました!10月25日(火)発売となります!
ウマフリ様のご縁で、こちらの書籍に記事を執筆いたしました!
↓ただいま、ブログ読者様プレゼントを募集中です!(受付終了しました)