京都競馬場の改修工事により、昨年に続き仁川の阪神競馬場での開催となった、2022年天皇賞・春。
違うのは、3年ぶりに有観客での開催となったことだ。
2マイルの長い長い道のりを、名うてのステイヤーがしのぎを削る、天皇賞・春。
歓声はまだ出せないが、久しぶりに「春の盾」が、ファンの前に帰ってきた。
前年の同レース2着であり、前走GⅡ阪神大賞典を連覇して挑むディープボンドが1番人気に推される。昨秋のフランス遠征の2戦以外の手綱を取る、和田竜二騎手とともに、初のGⅠ制覇に挑む。
そして、前年の菊花賞馬・タイトルホルダーが2番人気。菊花賞は横山武史騎手を背にしての勝利だったが、今回はその兄・横山和生騎手が騎乗。
この実績上位の2頭が、それぞれ18番、16番と外枠に入ったことが、レースを混沌とさせた。
さらには、GⅡステイヤーズステークス、GⅡ阪神大賞典と「マラソン重賞」を連続2着で挑むアイアンバローズが3番人気。
4連勝でGⅢダイヤモンドステークスを制して、波に乗るテーオーロイヤルがそれに続いた。
仁川に響く、天皇賞を告げるファンファーレ。
ゲートが開くと同時に、大きな異変が。
シルヴァーソニックから川田将雅騎手が落馬し、芦毛の馬体がカラ馬で駆けてゆく。
GⅠでのスタート直後の落馬というと、2002年の菊花賞・ノーリーズンの武豊騎手を思い出す。
明確な意思を持って出して行ったのは、16番のタイトルホルダー。
横山和生騎手は、外枠もかまわずに、押して押してハナを奪い切る。
番手にクレッシェンドラヴ、さらにはその内にテーオーロイヤル。
一方、ディープボンドの和田竜二騎手もまた、前目のポジションを取りに、大外から出して行く。
外枠に入った人気馬が、スタートからどう動くかが注目されたが、想定された隊列が組まれた。
一つ、誰の想定にも入っていなかったと思われるのが、カラ馬となったシルヴァーソニックが、その先行集団の中で追走していたことか。
多くの騎手が、そこに馬を置きたいと思うであろう、絶好のポジション。
そこに入ってしまった、カラ馬のシルヴァーソニック。
アクシデントであり、誰の責任でも無いことだが、少なからず影響があったか。
タイトルホルダーは前半1000mを1分0秒5で入り、1周目のスタンド前では大きく後続を離しての逃げる。
2コーナーから向こう正面に入ると、カラ馬のシルヴァーソニックが2番手まで上がっていく。
追いかける後続勢にとっては、厳しい形か。
3コーナー前で徐々に隊列が詰まっていく。
テーオーロイヤルの菱田騎手が押し上げ、ディープボンドの和田騎手の手綱も激しく動いている。
迎えた直線、タイトルホルダーの脚色は衰えない。
テーオーロイヤルが追いすがるが、その差はさらに開いていく。
ディープボンドがようやくその後ろから迫るが、タイトルホルダーのリードはもう十分すぎるほどだった。
左手を突き上げる、横山和生騎手。
タイトルホルダーが、春の盾を制した。
1着、タイトルホルダー。
前年の菊花賞に続いて、GⅠ2勝目のタイトルは春の盾となった。
その菊花賞と同じように、この馬のよさを活かすために、スタートから強い意思をもって出して行った横山和生騎手。
長距離で外枠からの発走にもかかわらず、かかることを怖れずに、勇気を持って出していった見事な騎乗。
それに応えるタイトルホルダーの操縦性のよさもまた、勝因の一つだろう。
初のGⅠ勝利を、この春の盾の大舞台で飾った。
前半1000mが1分0秒5、2000m通過が2分3秒6、そして3000mが3分3秒ジャストと、まるでお手本のような「急ー緩ー急」のペースのまた、菊花賞の再現のようだった。
これで、祖父・横山富雄騎手のメジロムサシ、父・横山典弘騎手のサクラローレルに続いて、親子三代での天皇賞・春制覇の偉業となった。
天皇賞を親子三代といえば、メジロアサマ、メジロティターン、メジロマックイーンの三代制覇が想起される。
施行回数165回を数える、伝統の天皇賞だからこその記録ともいえる。
秋は凱旋門賞の声も聞こえてくるが、さて。
まずは宝塚記念で、同型のパンサラッサとの対決が、あるだろうか。
強い逃げ馬は、競馬を面白くする。
二つ目の栄誉に輝いたタイトルホルダーの今後が、楽しみだ。
2着、ディープボンド。
初のGⅠタイトルを狙ったが、惜しくも昨年に続いての2着となった。
こちらもスタートから、先手を主張してポジションを確保。
大外枠から発走のロスを、最小限にとどめたのではないか。
しかし3コーナーあたりから、和田騎手が押して、鞭を入れていたあたり、ズブさも出てきたのだろうか。
かといって、もっと前から勝ち馬に鈴をつけにいくわけにもいかず、難しい競馬になってしまった。
それでも、最後は前を行くテーオーロイヤルを交わす、底力を見せて2着は確保した。
現役屈指のステイヤー、どこかで大きなタイトルが獲れるだろうか。
それとも、秋のフランスで大仕事を成し遂げるのか。
3着、テーオーロイヤル。
4連勝の地力を見せての、3着。
3コーナーからの勝負どころで、ディープボンドを外に追いやりながら、進路を確保する菱田騎手の騎乗が見事。
最後は脚が上がったが、それでも3着は外さず。
GⅠの舞台で結果を出したことで、この先が楽しみになった。
気性の難しかった、あのリオンディーズから、このテーオーロイヤルのような産駒のイメージがないが、面白いものだ。
4歳、まだ10戦目。この先のさらなる充実を、期待したい。
2022年、天皇賞・春。
伝統の春の盾を制したのは、タイトルホルダーと横山和生騎手。
菊花賞の重み、そして盾の栄誉を守る、親子三代制覇となった。