雨水の節気を迎えると、日差しに確かな暖かさが宿ってくる。
厳しい寒さは続くが、それでも春に希望を見たくなる時期でもある。
そんな2月の中旬に、フェブラリーステークスは行われる。
凛とした寒さの中、砂塵を巻き上げる熱戦は、春の訪れをいち早く告げる風物詩でもある。
2022年の今年は、単勝10倍以下の人気馬が6頭と、確たる主役不在の混戦模様。
そんな中、1番人気に支持されたのは、昨年11月のJBCスプリント1着から直行したレッドルゼルと川田将雅騎手。スプリントでの強さは折り紙付きだが、マイルの経験は前年の同レース4着のみ。400mの延長を克服できるか。
それに続くのは昨年の覇者・カフェファラオにはテン乗りで福永祐一騎手、さらに南部杯連覇から臨む交流重賞の鬼・アルクトスには田辺裕信騎手。
稀代のアイドルホース・白毛のソダシと吉田隼人騎手は、昨年12月のGⅠチャンピオンズカップ惨敗からの巻き返しを狙う。
前哨戦のGⅢ根岸ステークス勝ちから進出を狙うテイエムサウスダンと岩田康誠騎手が続き、そして昨年11月のGⅢ武蔵野ステークスの勝ち方が強かったソリストサンダーまでが10倍以下の人気。
さらには2019年の覇者・インティ、前年のJBCクラシックを、史上初めて地方所属馬として制したミューチャリー、芝GⅠ馬タイムフライヤ―といった多士済々の16頭。
小雨が降り続き、馬場状態は重馬場の発表となった東京競馬場に、今年最初のGⅠのファンファーレが鳴り響く。
今年初めてのGⅠで、砂の凱歌を上げるのはどの優駿か。
揃ったスタートから、目立って好発を決めたのは、外枠のテイエムサウスダン。
内からはサンライズホープ、アルクトス、ダイワキャグニーあたりもいい行き脚を見せる。
一方、前目のポジションが予想された好枠のインティと武豊騎手は、出負けして後方からの競馬となる。
テイエムサウスダンの岩田康誠騎手は、いったんサンライズホープを行かせたものの、馬の行く気を尊重しハナに立つ。
サンライズホープが番手、その後ろにソダシ、ダイワキャグニー、アルクトスあたりが番手集団を形成、その外にカフェファラオが自然にポジションを取っていく。
ソリストサンダーがその後ろあたり、レッドルゼルは前目のインコースを追走。
緩い流れのまま、隊列は変わらずほぼ一団のまま直線を向く。
テイエムサウスダンが粘り込みを図り、ソダシとソリストサンダーが差してくる。
しかし、外からカフェファラオが確かな脚で伸びる。
ダートコースの真ん中を伸び、1着でゴール板を通過した。
2着に逃げ粘ったテイエムサウスダン、3着にはソリストサンダーを振り切ったソダシが入った。
1着、カフェファラオ。
コパノリッキー(2014年、2015年)以来となる、同レース連覇を達成した。
スタートは五分ながら、前目の外のポジションを確保し、スムーズに道中を運べたことが、大きかった。
勝ち時計1分33秒8は、コースレコードタイ。
同日9レースの3歳リステッド・ヒヤシンスステークスが1分35秒3での決着と、かなり脚抜きがよく時計の出る馬場だったようだが、それにしても速い時計での決着となった。
前目4番手あたりにつけて、終いを34秒3で上がられては、後続馬はお手上げだったか。
この3ハロン34秒3というのは、東京ダートのマイル戦の勝ち馬の上がりとしては、破格に速い。
それだけの潜在能力がありながら、気性の難しさという課題を抱えていた。
前年は芝の函館記念へ挑戦したりと、試行錯誤を続けていた陣営の喜びも大きいだろう。
そして何より、福永騎手。
昨年12月の香港国際競走で、多重落馬事故に巻き込まれて鎖骨骨折などの大怪我を負っていた。
2月上旬から復帰するスピードにも驚いたが、今年最初のGⅠを勝利で飾るとは、何という精神力なのかと感嘆するばかりだ。
勝利騎手インタビューで、復帰していない段階で騎乗依頼があったことを明かしていたが、そうした期待に応えるのが、名手の矜持なのだろう。
コントレイルとの旅路は昨年で終わりを告げたが、今年もいくつもの名騎乗、名勝負を見せてくれそうな、そんな今年最初のGⅠ勝利となった。
2着、テイエムサウスダン。
このレースにかける想いが伝わるような、岩田康誠騎手の騎乗だった。
逃げ候補のインティが出遅れたことにより、ハナを切ったサンライズホープ。
それをよしとせず、3コーナーに入る前にハナを奪う、積極的な騎乗。
前走、根岸ステークスでは中団待機の戦法を取ったが、この大一番での大胆な騎乗。
絶妙に落としたペースを刻むことで、何とか1,400mを主戦場とする同馬を鼓舞し続けた。
勝ち馬にはかわされたが、岩田騎手の強気の騎乗でもぎ取った2着だったといえる。
日高・グランド牧場、父・サウスヴィグラス、そしてテイエムの勝負服。
引き続き、岩田康誠騎手とのコンビで、大きいタイトルを獲ることを期待したい。
3着、ソダシ。
ダート2走目で、その才の片鱗を見せる走りだった。
芝でもダートでも、スムーズにポジションが取れる自在性が、この馬の魅力だが、今日はそれ以上に直線の粘りが光った。
後ろからソリストサンダーの追撃を受けながら、前のテイエムサウスダンの差をじりじりと詰める走りに、高い地力を感じた。
前走のチャンピオンズカップから、1,600mの距離短縮も効いたか。
ダートにも目途が立った、稀代のアイドルホースは、次はどこへ向かうのだろう。
今年の楽しみが、また増えたようだ。
2022年最初のGⅠ、フェブラリーステークス。
小雨の中、寒風を切り裂き、突き抜けて連覇を達成したカフェファラオ。
連覇を導いたのは、不運な怪我から帰還した名手・福永騎手の見事な騎乗だった。